心弛



「背…」
後ろから、ポツリと声が聞こえた。
いつも聞いている声だ。
着替えていた手を止め、顔だけ振り返った。
「傷跡、残っちまったな…」
そっと、背中に触れる温もり。
先日灰域種と遭遇した時のものであろう。
コンテナの中にいた少女を、咄嗟に庇ってついた傷だ。
「……そっか」
「軽いなぁ」
手を離し、ユウゴは苦笑する。
「まぁ、見えないし」
もぞもぞと服を着る。
完全に、傷跡は覆い隠された。
「痛みは、ないか?」
「そっちより、3日も寝てたから身体バキバキの方が辛いかな」
腕を振ってみせる。
3日も寝ていたとは、自分が信じられないぐらいであった。
昔は、睡眠など最低限しか与えられなかったのだから。
「元気だな…」
「褒めてる?貶してる?」
視線を逸らすユウゴに、今度はこちらから目を向けた。
「褒めてる褒めてる」
「二回言った…」
じとっとユウゴを見つめる。
しかし、視線は戻ってこないまま。
「はは、悪い」
からからと笑う横顔。
どことなく、違う、と思った。
視線が、下がる。
「……ごめん。…心配、かけた……」
尻すぼみになりながら、声を絞り出す。
咄嗟に身体が動いてしまったが、他にももっと良い方法があったかもしれない。
あそこでもっと冷静にアラガミの攻撃を読めたなら。
銃形態で弾幕を浴びせられたなら。
もっと早く駆けつけていられたなら。
自分を守るために戦ってくれた皆にも、危ない橋を渡らせた。
「……全く」
ユウゴが一つ、息を吐く。
それで全て出し切ったように。
「今度埋め合わせしろよ?」
眉根を下げて笑うユウゴ。
いつもの笑顔に、少しだけ支えが取れた気がした。
「うん」
ようやく、視線が合わさった。



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