「どうしてマルコさんを呼んだの?」

そう問えば、エースは「ナマエの体をちゃんとした医者に診てもらいたかった」と言った。
この村のお医者さんに失礼だろうと思いつつも、私がマルコさんに診てもらって、エースの気持ちが少しでも楽になるなら良いかと思った。


エースは私が知らぬ間にマルコさんに手紙か何かで連絡を取っていたらしい。
弟ルフィの船医も凄いが、やはりこの田舎まで来てもらうのは大変だ。
しかしマルコさんなら飛べるから大丈夫だとエースは親指を立てて胸を張った。



マルコさんを家に招き入れようとしたが、それよりもエースがぴゅんと隣に行って村を紹介し始めた。
高台にあるこの家からは結構村を見渡せる。
あっちが街で、あっちにはガラス工房がある、すぐそこの家は世話になっている家族の家。

エースはそのまま小道を突き進む。
私はそっとマルコさんのそばに寄った。

「遠くから、ごめんなさい」
「おまえが謝ることじゃねェよい」

きっと何年も悪ガキエースの世話をしていたのだろう。やれやれと言った感じだが、エースの扱いに慣れていた。

エースは久しぶりの仲間登場に、子どものようにテンションを上げている。先ほどからマルコさんの周りをくるくる周り、1人でペラペラ話しているのだ。
出会った頃の無邪気で可愛い少年エースを思い出して少し嬉しくなった。


「なぁなぁマルコ。ナマエのつわりがどんどん悪化してるんだよ。ほら、マルコの力でパーッとナマエの体元気にしてくれよ」

少年のようなエースはそんなことを言った。
わざわざそれだけのためにマルコさんを呼んだのだろうか。私は結構驚いたけど、マルコさんは服の袖をエースに引っ張られながら呆れ顔のままだ。

「無理だよい」
「なんでだよ!」
「つわりは怪我や病気と違う。回復どうこうって事じゃねェんだよい」


あからさまにショックを受けた顔をするエース。地面に突っ伏してしまった。
慌てて駆け寄り、頭を撫でてあげる。


そんな私たちを見てマルコさんは声を上げて笑った。

「まぁ、そんなことだろうと思ってつわりが楽になる薬草は持ってきてやったよい」
「マルコぉ!!」

エースは私より喜んでいる。
ありがとうございます、と言ってはみたが、興奮したエースの声でかき消されてしまった気がする。あとで改めてお礼を言わなきゃいけないと思った。



やっとマルコさんを家の中へと案内することができた。採れたてのりんごを剥いて出すと、土産だと言って見たことがない果物が何種類か入った袋を手渡された。
きっと新世界のどこかで摘んだきてくれたのだろう。
どれもさっぱりしていて、つわり中でも食べやすいだろうと言う。

ちなみに彼の好物だというパイナップルも貰った。妊娠中はおすすめなんだと力説されたが、難しい言葉が多くて理解できなかった。とにかく体には良いとのこと。

「こんなにたくさん、ありがとうございます」
「それとこれはさっき言ってた薬草だよい」

束で渡されたそれは松の葉に似ている。
硬そうだ。食べられるのだろうか?

首を傾げているとマルコさんが「食べ物じゃあねェ」と微笑んだ。心の中を読まれたみたいで驚いていると「風呂に入れるんだ」と教えてくれた。

「お風呂?」
「ああ。いい香りがする。蒸気と一緒に葉の成分を吸えばいくらか吐き気が楽になるらしいよい」

お腹の赤ちゃんに影響はないから安心していい、と微笑んだ。その視線は私のまだ膨らんでいない腹部に向いている。
きっとマルコさんも、あのエースの子どもが生まれてくるのを待ってくれているんだろう。
大切に育てたい。
そう思った。


「マルコーーー!昼飯!鹿鍋!捕まえて来たぞ!」

クマと見間違えるほど巨大の鹿を背負い、エースが勢いよく扉を開けて帰宅する。野生動物独特の匂いに「うっ」と口元を手で覆うと、マルコさんもエースもハッとした。

「エース……。おれは心配が尽きねェよい」
「ナマエっ!大丈夫か?ごめんな…!」

叱られた仔犬のような顔をするエースに、思わず吹き出してしまった。今日はエースの表情がよく変わる。

「大丈夫。でも、調理中は2階に避難してる」
「おう。ゆっくり休んどけ」
「夕食も、たまには街で食べて来て。せっかくだからマルコさんとお酒でも飲んで」
「夕飯、ナマエはどうすんだよ!」
「私はそんなに食べられないし、いつも通り果物とサラダでも食べておくね」

そして久しぶりの1人の時間を堪能したいという思いがあった。せっかくだからいただいた薬草でゆっくりとお風呂に浸かりたいのだ。

エースは心配そうに眉を寄せながらも、やはり久しぶりの友人にワクワクする気持ちが勝るのか、夕方には2人で街へと繰り出した。


さて、久しぶりの1人の時間。
こういう日も大切だ。さっそくお風呂にお湯を張って、薬草を浮かべて入浴を楽しんだ。







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