「つわりって、本当に終わるの……?」
「人によるけど、だいたい安定期になると治ってくるみたい。赤ちゃんが産まれるまで続く人もいるみたいだけど…」

ジェニーは自分のお腹を撫でながら、心配そうに私の顔を覗き込んだ。


つわりは全く良くならなかった。
天気のいい日は少しだけ散歩をするように心がけ、食べ物も出来る限り口にするようにしている。
しかし頑張りすぎるとすぐに吐いてしまう。ほとんど寝たきり生活だ。
その度にエースは真っ青になって心配する。そんな彼を見るのは地味につらい。
エースを悲しませたくないのに。


今日も様子を見に来てくれたジェニーに何かと相談していた。
ジェニーのお腹は立派に膨らみ、妊婦だと言うことが一目瞭然だった。5ヶ月を過ぎた頃からどんどんお腹が膨らんできたらしい。最近足が浮腫んでつらいんだそう。
寝る時もお腹が重くて苦しいらしい。


「こんなにお腹が出るものなんだ…」
「男の子だと、前の方が大きくなって、女の子だとお腹全体が大きくなるってうちの近くにあるレストランのおば様が言ってたの」
「じゃあジェニーの赤ちゃんは男の子なの?」
「そうなのかなって」
「名前は決めた?」
「ううん。顔を見てから決めようと思う。その子に似合う名前が良いかなって、旦那と話し合ったの」
「なるほどね…」


その日の夜、お風呂上がりのデザートを楽しむエースと昼間にジェニーとした会話の内容について話した。
ちなみにデザートというのはリンゴを薄切りにしてただ凍らせたものだ。だから私でも食べれる。

「私は自分の名前の由来なんて分からないし、別にこだわりなんて無いけど、自分の子どもには素敵な名前をプレゼントしたいな」
「ふぅん…名前か……」

あとから知ったが、エースの名前は父親であるゴール・D・ロジャーの愛刀からとったものらしい。
名付けは母親で、女の子ならアンだったそうだ。その名前があまりにも可愛くて、女の子になったエースを想像すると本当に似合っていて、私は思わず笑ってしまった。そのせいでエースの機嫌が悪くなったのは言うまでもない。

女の子が生まれたらアンと名付けるのも良いかなと思った。
語呂がいいしエースにそっくりの女の子が生まれたらきっとぴったりな名前だから。やっぱり私も赤ちゃんの顔を見てから決めた方が良いのかもしれない。


「エースは何か考えてた?名前」
「んーー、まだ考えてねェ」
「考えなきゃいけないね」

どんな名前がいいだろう?

エースは眠そうにぼんやりしている。
昨日の夜、街の人たちと遅くまで飲んで帰って来たのだ。
私が妊娠してから、私よりも精神的につらそうにしている彼を見て耐えられなくなった。気分転換にみんなと遊んできて欲しいとお願いすると、困った顔をしながらも大人しく出かけて行った。

帰ってきたのは夜12時ごろ。
酔ってフラフラしていたが、私の顔を見るなり「ごめんな、おればっか」「大丈夫だったか?」と正気に戻ってしまい、結局あまり効果は無かったように思う。


目の前のリンゴを見つめ、子どもの名前のことやエースのことを考えていて、ふとある事を思い出した。

「そういえば、リンゴ収穫したらみんなに配りに行こうって言ってたよね」

それを口実に、今度は2人で世界中を旅する約束をしていた。冬になれば農作業はなくなる。暇な時間はそうやって放浪してみるのも悪くないと話していたのだ。
結局私の妊娠発覚で有耶無耶になってしまった。リンゴの収穫も、ほぼ全てエースがしてくれた。


「ごめんね、みんなに配りに行けないね…」
「おい、謝んなよ。子どもが出来たのはめでたいことだろ?」
「…うん」
「子どもがおっきくなったらよ、家族で旅に出ようぜ。な?」
「うん、そうだね。そうしよう」

先ほどのぼんやりエースはどこへやら。
スイッチが入ったようだ。彼は笑って小指を差し出した。
指切りしよう、なんて可愛いことを言って。
くすりと笑って自分の小指を彼の小指に絡めた。長さも太さも全然違う。
私の大好きなエースの指。

見つめ合うと、未だに少し恥ずかしいし胸がきゅっと締め付けられる。エースの綺麗な瞳が、どうかお腹の赤ちゃんに似ますようにと心の中で願った。


「そうだ、さっきの話で思い出した」
「ん?どうしたの?」
「マルコが近々来るわ」
「…えっ?」


言うの忘れてた!とエースが能天気に笑った。
それはもう文句を言うことも出来ないくらい、無邪気な子どもみたいな笑顔だった。




それから数日後、空から青い炎に包まれて飛んで現れたのは紛れもなく元白ひげ海賊団1番隊隊長、マルコ。
呆然とする私、喜び飛び跳ねるエース。
そしてうんざりしたような顔をしたマルコさん。
久しぶりに賑わいそうだ。







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