マルコさんは2日ほど滞在すると、また青い炎に身を包んで帰って行った。
もらった薬草風呂は効果覿面で、常にある吐き気が入浴後はほぼ解消された。嬉しくて食欲が増えてしまい、くれぐれも体重管理には気を遣えと注意されてしまった。

ついでに妊娠中に気をつけることと、体の動かし方などをアドバイスしてくれた。その内容はしっかりノートに書かれていて、大事に使わせてもらうことにした。


そして気がつけば5ヶ月目になり、お腹はゆっくりと、しかし確実に膨らんできている。安定期に入って少しするとつわりも治っていた。

5ヶ月。
つまり安定期。
ついに私の懐妊を村の人たちに伝えることができた。
先日はジェニーの赤ちゃんが無事に産まれたばかりなので、村は今喜びに満ちているようだった。
ちなみに産まれたのはジェニーそっくりの可愛らしい男の子。
レノルズさんがすでにデレデレ状態らしい。


「私たちの赤ちゃんは男の子かな?それとも女の子かな………」

私は母親の働いていた娼館で生まれた。
自分も娼婦になる運命だった。娼婦にならなければ生きていけない状況だったから仕方がないと思う。
後悔はしていない。
別の人生を送っていたらエースに出会えなかったのだから。

けれど自分の子どもには同じ道なんて絶対に辿ってほしくはない。平和に、平凡に過ごしてほしい。女の子ならば尚更だ。好きな男の子と普通にお付き合いしてくれたらいい。
私はエースに恋をして、本当に幸せだったから。


最近、母性本能が刺激されているのだろうか。
いつも我が子に思いを馳せてしまう。
早く会いたいとも思う。
あんなにも最初不安だったはずなのに、今は楽しみの方が勝っているのだ。

それはエースもだろう。
私のつわりが終わった途端、エースも目に見えて元気になった。いつも私を心配して、心を不安定にさせていたエースも本調子。
最近、よく行くガラス工房で可愛らしいコップを3つ作って帰って来た。
家族の分、なんて胸を張っていたが、赤ちゃんがコップを使えるようになるのは果たして何ヶ月後だろうか。いや、何年?


秋の食べ物を堪能していて、あっという間に冬になり、そして春になった。
お腹はかなり大きくなり、赤ちゃんを迎える準備に忙しい。だから私たちはすっかり忘れていたのだ。
サボに妊娠を伝えることを。




「………ナマエ、その腹…?」
「えっ、サボ!?」
「おおサボ!久しぶりだな!どうしたんだよ?」
「いやいやいやいや!おまえら!!!」

本当に、サボはいつも突然現れる。
今だって開け放たれた窓から入って来たのだ。昼食の準備をしていた私たちは突然のサボの登場に驚き、手を止めて窓辺に駆け寄った。

「ナマエ!妊娠したのか…!?」
「あ?言ってなかったっけ?」
「今8ヶ月だよ。あと少しで生まれるの」
「はぁぁぁ!??」

もう生まれんじゃねェか!とサボは頭を抱え、その勢いのまま部屋に侵入した。
今回もかなり大きく膨らんだ風呂敷包を背負っている。

「ごめんねサボ、言うの忘れてた」
「忘れちゃ駄目だろ!」
「まあ良いじゃねェか!それより、あと少しで会えるんだから喜べよサボ」
「待ってくれまだ頭が混乱してる。8ヶ月…?おれが前に来た時、いつだ?それからすぐに出来たってことか?」
「そうだね…。サボが帰ってから割とすぐに発覚したかも」
「懐かしいなぁ!お、美味そうな酒入ってんじゃねェか」

エースはサボの風呂敷包を勝手に探っている。
中から美味しそうなビールとワインのボトルを見つけて嬉しそうだ。残念ながら私はしばらくお酒を楽しめないが。

「何にもガキに関する土産がねェよ」
「ガキって…言い方!サボもおじさんになるんだから、言葉遣い気をつけてよ」
「コアラに良い土産話が出来んじゃねェか」


久しぶりのこのわちゃわちゃ感。
私もエースに加勢して風呂敷包の中を探ってみる。美味しそうな砂糖菓子を発見した。

サボは未だに頭を抱えてリビングをフラフラ歩き回っている。「おれがおじさん…」「8ヶ月…」と、何やらブツブツ呟きながら。


「とりあえず落ち着いてサボ。今から昼食だから、3人でゆっくり食べよう」
「そうだな!良い天気だから外で食おうぜ!」
「あ、ああ。そうだな。そうさせてもらうよ…」

すでにお疲れ気味なサボを引きずり、春の少し肌寒い風を感じながらのピクニックへ。
なんの花なのかは知らないが、小さくて色とりどりの花が咲いていて近くにはミツバチが飛んでいる。
そんなのどかな風景を眺めながら、3人で出来立てのコーンスープとサンドイッチを食べた。

ついでにサボがお土産で持って来てくれた近くの島で人気のシフォンケーキもデザートとして楽しんだ。


「んで、サボはまたいきなりどうして現れたんだよ?」
「長期休暇だ。1ヶ月も休みがあるから、半分はこっちにでも顔出すかと思ってな」
「そうなんだ」
「けど今決めた。休暇伸ばす」
「「は?」」
「2人のガキの顔が早く見たいからな。あと普通にナマエが心配で死にそうだ」
「えっ、キモい……」
「なんでだよ!!!」
「サボぉ…おまえそう言えばシスコンだったな」

お腹の中の赤ちゃんも、何を思ったのかうねうねと動いたのが分かった。
口の割に生クリームをつけたまま、サボは「もう決めた」とふんぞり返るのだった。







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