14話「夫婦と両親」

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それから名前と義勇は途中、宿に泊まるなどしてゆっくり屋敷へ帰った。
任務は骨折が治るまではない。


名前は帰ってすぐに身体を診てもらい、正式に妊娠が分かった。
自分の両親にも報告に行った。

いつのまにか自分も親になるのかと思うと、なんだか実家がとても恋しくなってしまった。
最近思い出すのは小さい頃のことばかり。
両親と一緒に旅をしたことや、釣りに行ったこと、怒られたこと、たくさん思い出す。

そしてどうしようもなく寂しい気持ちになるのだ。

義勇が家にとどまってくれている期間でまだ良かったと名前は思った。
寂しい気持ちになれば稽古場で鍛錬をしている彼に会いに行けば気持ちは少し楽になる。


今日は体がつらいわけではないが、どうにもやる気が出なかった。
縁側でぼんやりと空を見上げる。
食べようと思って持ってきた団子も手をつけていない。

小さい頃もこんな風に空を見上げて、将来素敵な人と結婚することを妄想していた。
それがまさに今なんだと思うと変な気持ちになる。
自分は自分が思い描いていた大人になれたのだろうかと今更考えてしまうのだ。


「今日は俺が夕食を作るか」
「あ、ごめんなさい!もうそんな時間…」
「いや、無理するな」
「具合が悪いわけじゃないので」
「最近、元気がないように見える」


そう言われ、名前はどきりとする。
見破られていた。
自分では隠しているつもりだったのだが、義勇は気づいていたらしい。

「ごめんなさい…」
「なぜ謝る」
「なんだか最近、自分でも良くないなって、思ってたんですけど…」
「おまえの実家から戻ってからだな。何かあったか。戻りたいか、実家に」
「そういう訳ではないんです」

自分の発言はしどろもどろで、義勇をイラつかせていないか不安になる。
しかし名前の肩を抱く義勇はいつも通り優しい。


「なんだか色々、不安になるんです」
「…」
「私、ちゃんと親になれるんでしょうか」
「…俺もそれは不安に思う」
「義勇さんも?」
「ああ。自分の親を思い出すと尚更だ。俺は両親のように立派な親になれるのか不安になる」
「わ、私も一緒です…!」

義勇も全く同じことを思っていた。
それを知ってひどく安心した。


「親になるのは名前だけじゃない。俺もだ」
「はい」
「お互い初めてだから不安になるのは当たり前だろう。だからこそ、支え合おう」

義勇は名前の頭を撫でる。
名前は知らず知らず泣いていた。
不安でどうしようもなかった気持ちを彼が分かってくれたことで、ずっと我慢していたものが溢れたようだった。

そんな名前を義勇はずっと、抱きしめていた。



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