13話「夫婦と妊娠」
.
名前はしのぶに言われるがまま、義勇の個室へ戻された。
なんと言えばいいのか分からなかった。
こんな時、どう切り出すのが正解なのだろうか。
ベッドの上の義勇は帰る気満々のようで身支度を始めていた。
名前が帰ってくるとハッとして動かしていた手を止める。
「どうだった」
「あ…」
「身体、診てもらったんだろう」
「はい」
「……どこか悪いのか」
義勇は顔を曇らせる。
名前は更に焦る。
「あ、あの、義勇さん…」
「大丈夫か」
「はい。あの…妊娠したみたいです私」
「……に、」
義勇は手に持っていた着替えをバサリとその場に落とした。
今まで見たことがないほどに目を見開き、名前の顔と腹を交互に見た。
「ほ、本当か」
「はい。まだ正式にはわかりませんけど、たぶんそうだと思います」
「名前…」
よろよろと名前に近づき、義勇はそっと彼女を抱きしめた。
壊れ物を扱うかのように優しく優しく、力を入れないように。
「義勇さん、大丈夫ですよ?そんなに優しく触れなくても…」
「いや、腹の赤子になにかあったらどうする」
「まだお腹も大きくなってないのに」
ふふふ、と名前が笑うとつられて義勇もふ、と短く笑った。
名前は胸がきゅっと苦しくなった。
幸せを感じた。
「ありがとう、名前。俺の子を、生んでくれるのか」
「はい…もちろんです」
「そうか……」
そう言って義勇は先ほどよりも腕に力を入れた。
蝶屋敷で休んでいたせいか、服からはいつもの香りではない匂いがする。
しかし義勇の首元からは彼本来の匂いがする。
落ち着く、ずっと嗅いでいたい匂いだ。
「名前、俺はどうしたらいい」
「えっ」
義勇はさっと名前から離れたと思ったら身支度を再開させた。
せっせっと動く義勇は骨折してるとは思えない俊敏さだ。
これが柱の力なのだろうかと名前はぼんやり思った。
「まだそんなに気を遣われなくても大丈夫ですよ」
「今できることはないか」
「う、うーん、そうですね。家事がたまにつらい時があるので、その時はご容赦ください」
「家政婦を頼むか」
「いえいえ!そこまでつわりが酷いわけではないので!稀に、つらい時があるかと思うので、その時は少し家事が手抜きになるかもしれないです」
「わかった。しかし家政婦はいつでも雇える。無理をせずにつらかったらすぐ言え」
「わかりました」
いつにもなくキビキビ動き、頼り甲斐のある義勇に名前は苦笑いした。