17話「ゆっくりでいいから」

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「最近、あの子とどうなんだ?」
「誰だ、あの子って」
「苗字名前だよ。付き合ってるのか?」


開店から大繁盛のゲストハウスで、義勇と錆兎は夕食を作りながらそんな会話になった。

あれから月に2、3回は二人で出かけている。
もちろん仕事でもたまに打ち合わせで会うことがある。
それを入れるとかなり名前と義勇は顔を合わせる頻度が増えていた。

パイナップルの皮を剥きながら錆兎はニヤニヤしながら義勇を小突いた。
皿に杏仁豆腐を乗せながら義勇は名前のことを考える。


「…あんみつを食べた」
「いや、俺の質問の答えになってないだろ」
「付き合ってはいない」


仲はかなり良くなっていると義勇本人も周りも思っている。
しかし中々踏み切れない。

過去の名前と違って、自分のことをどう思ってくれているのかが分からない義勇は不安だった。

「いいのか?おまえは。1週間前に来てくれたあの2人が羨ましくなかったのか?」
「…」

1週間前、伊黒小芭内と甘露寺蜜璃がゲストハウスへ泊まりに来た。
やはり雑誌に掲載されたのを見て、遠路はるばるやってきたのだ。
2人は結婚したのだと言っていた。
炭治郎は嬉しそうに笑っていたのを覚えている。

2人は不死川兄弟とも会ったらしく、このゲストハウスへくるように勧めると言っていた。
いつ実弥が来てもいいように、最近義勇はおはぎ作りの練習をしている。


「名前はまだ若い」
「ん?そうだな」
「まだ今のままでいい」
「そんなこと言ってると他の男に取られるぞ」
「…」

錆兎を睨みつけ、義勇は宿泊客分皿に盛り付けた杏仁豆腐を冷蔵庫へ仕舞った。
夕食まであと少し時間がある。


「少し外の畑に行ってくる」
「ああ。きゅうり、なってたら取ってきてくれ」
「わかった」

ゲストハウス裏にある畑は鱗滝と炭治郎が率先して作ってくれたものだ。
今年の春からはじめて今ではたくさんの野菜がとれ、食事の際には自家製の野菜を提供している。
そう思えば名前と出会って半年以上経っていた。

畑に来ると義勇はスマートフォンを開いた。
今日は木曜日だから名前は疲れているだろう。

自然と名前とのトークルームを見てしまう。
昨日の夜に、今週行く店の予定を立てた会話で止まっている。

意味もなく名前とのやりとりを遡って見てしまう。
そして不思議と胸のあたりがあたたかくなる。

名前も同じ気持ちでいたらいい、いつもそう願ってしまうのだった。



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