18話「もう一度」

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「義勇!これ、彼女のじゃないか?」

錆兎と名前がイベント用のチラシ作成の打ち合わせをした日、カフェの机の下に名刺入れが落ちていた。

中を開くと確かに
「株式会社ウィステリア 苗字名前」
と記載された名刺が何枚も入っている。

「おまえ明日、会うんだろ?」
「ああ」
「じゃあその時に渡してくれないか」
「わかった」


そう言って義勇は錆兎から名刺入れを受けとり、名前にメッセージを送った。

『名刺入れを落としていたぞ』
『探してたんです!義勇さん、明日持ってきてくれませんか?』
『そのつもりだ』


最近やっと名前は「冨岡さん」から「義勇さん」になった。
過去のように「義勇くん」へはまだまだだが、かなり前進している。

帰りに持って行くために名前の名刺入れをスタッフルームの机に置いた。
まだ少しだけ仕事が残っている。


義勇は自宅へ戻ると夕食の支度を始める。
明日名前と会うため、仕事は休みだ。
忙しいこともありゲストハウスに寝泊りする毎日でアパートへ戻るのは週に1回程度になっている。
もはやゲストハウスへ下宿でもしようかと思う。
しかしなんだかんだ、アパートへ戻ってしまう。

真菰が現れたら、きっと錆兎と2人で暮らすだろうと思っているからだ。
その時自分は邪魔になる。

前々から思っていた。
錆兎の前に真菰が現れれば必ず2人は一緒になることを望むのだと。
しかしまだ真菰は現れない。

名前が自分より年下に生まれたように、真菰はもしかしたらまだ赤子かもしれないし、逆に高齢なのかもしれない。
最近錆兎は真菰の話をあまりしない。

義勇はそのこともあり、名前に告白ができないでいる。
1人だけ幸せになるのが申し訳ない気がする。


今の名前が好きだ。
過去の名前と少々違うところもある。
しかし義勇はこの何ヶ月も名前と会い、やはり自分には彼女以外考えられないと思った。

きっと錆兎もそうなのだ。
錆兎と再開した時「真菰を知らないか?」と不安そうに聞いてきた。

自分も名前をずっと探していた分、今の錆兎の気持ちがよくわかるのだ。


明日は名前が友人の結婚式に来ていく服を買いに行く。
「義勇さんに選んでもらいたいんです」と彼女は照れながら言っていた。

名前と親しくなるにつれて、錆兎に対して罪悪感のようなものが生まれてしまう。
もちろんそんなことは誰にも相談できずにいた。



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