16話「2人ならどこだって楽しい」

.


名前が水族館内のトイレへ行き戻ってくると、大きな水槽前のベンチで座る義勇がいた。
あまり人のいないフロアで、義勇だけが周りとは違って見えた。

(綺麗な人…)

なぜか名前は泣きたくなる。
義勇に会ってから、情緒が不安定な気がしていた。


「お待たせしました」
「いや。…あっちの土産屋は行かないのか」
「寄ってもいいですか?」
「当たり前だ」

手を繋いだり、寄り添ったりはしない。
しかしまるで恋人だったことが当たり前のように、一緒にいるのが正しいことのように感じる。

名前は隣の義勇をチラリと盗み見た。
こんなにも美しい人が、なぜ自分を気にかけてくれるのか不思議でならなかった。


「あ!このぬいぐるみ、かわいい…」
「……クマだぞ」
「う…」

なぜか水族館のお土産にクマのぬいぐるみが売られていた。
それがあまりにも可愛く、名前は立ち止まり持ち上げ、じっと見つめる。

「一目惚れしました」
「…なら買えばいい」
「はい!」
「それだけでいいのか」
「このマスキングテープとか可愛いんですけど高いし…クマも高いのでクマだけにします」
「…そうか」


さっそくクマのぬいぐるみをレジへ持っていく。
義勇は未だに店内をふらふらしている。
何か買わないのだろうか?と思っているうちに自分の番になった。


買い物を終えて義勇を探すと、意外にも彼はレジで会計中だった。
割と大きな袋が見えて、一体何を買ったのか気になる。
名前の元へ戻ってきた義勇に勇気を出して問いかけた。

「何を買ったんですか?」
「土産にクッキーを買った」
「ご家族?ですか?」
「ああ。姉と、あとは錆兎たちに」

姉がいたのか、の名前は内心呟いた。
たしかにそう言われてみれば、義勇が弟気質であることに気づく。


「義勇さんは親しい人を大切にしてるんですね」
「当たり前だ。大切なのだから」
「そうですよね。でも、そういうことを自然にできる人って素敵です」
「…」


義勇は照れたのかさりげなく名前から顔を背けた。
言った本人である名前も照れ臭くなり俯いた。


そのまま水族館を後にし、2人は近くのカフェに入った。
名前はココア、義勇はコーヒーを頼む。

「今日は楽しかったです。また一緒にお出かけしましょう」
「ああ。次の場所を考えておけ」
「わかりました」
「名前」
「はい?」

義勇はおもむろに紙袋を取り出し、目の前にそっと置いた。
どうやら名前への贈り物らしかった。
それに気づいた名前は慌てて袋を開ける。

中には買うのを諦めたマスキングテープと、それと同じデザインのボールペンが入っていた。

「…!これ、水族館で買えなかったやつ!それにこのペン、可愛すぎませんか!」
「いや、こんなものしか買えなくて悪い…」
「こんなものって…すごく嬉しいです。ありがとうございます」


名前は自分でも驚くほどに嬉しく、泣きそうになるのを必死に堪えた。



prev / back / next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -