15話「はじめてのデートは」

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名前は待ち合わせの30分遅れで到着した。
「すみません遅れます」「あと10分で着きます」「もう少し遅れます」と、たくさんのメッセージが義勇のスマートフォンに送られて来ていた。


「本当にすみません…」
「構わない…なにかあったのか」
「ふ、服が決まらなくて」
「服が…」

名前をよく見ると、見たことのないスカート姿だ。
淡い色のロングスカートがとても似合っている、と義勇は内心思っていたのだが口には出さなかった。


「いくぞ」
「どこへ行くんですか?」
「…なにが好きなんだ」
「えっ?」
「名前の行きたい場所に行く」
「ええ!?」


少しの間名前は首を傾げて考えていたが、すぐに歩き出した。

「どこへ行くんだ」
「水族館です」
「好きなのか」
「まあ好きですし、困ったら水族館じゃないですか?」

どこの常識なのか知らないが、義勇は黙ってついて行くことにした。
前を歩く名前はいつもと雰囲気が違う。
仕事以外で会うのは、先日ゲストハウスのプレオープン日に名前が来た時くらいだ。

いつもより整えられた髪型と、いつもより大ぶりなピアス。
靴もヒールが少し高いのか、頭の位置がいつもより高い。


義勇がぼんやりと後を追って行くうちに水族館に到着していた。
名前は早速発券機でチケットを手早く購入する。

「来たことがあるのか?」
「ないです。でも基本、どこの水族館もシステムは同じだと思いますよ?冨岡さん、水族館とか来ないんですか?」
「………小さい頃に」

名前は義勇にチケットを渡しつつ、何か言いたそうにチラリと目線を送る。

「…あの、彼女さんとか、いないんですか?」
「いない」

義勇の言葉に名前は安心したように表情を緩めた。
その理由を義勇は見当もつかない。

「冨岡さん、イケメンだからモテそうなのに」
「別にモテるからと言って彼女がいるわけじゃないだろう」
「モテるんですか?やっぱり。じゃあ告白されても断ってるんですか?」
「ああ。好きでもない女とは付き合わない」


「ほお」とか「へえ」などと言って名前は義勇の先を歩く。
義勇から彼女の顔は見えない。
しかしゲートをくぐって水槽のある部屋へ行けば、名前は今までの会話など忘れたかのように目を輝かせてはしゃぎ出した。

「冨岡さん!見てください!」
「見てる」

義勇は微笑みながら名前に寄り添った。



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