7話「夫婦と疑惑」
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「ぎ、義勇…さん」
名前は青ざめ、手にしていた衣類をその場に落とした。
義勇の隊服のポケットから自分の知らない口紅が出てきたのだ。
よし、これから洗濯をするぞ。
という時に持ち上げてみてから分かったのだ。
何かが入っていることに気がついて手を入れて後悔した。
知らなければ良かった。
「とりあえず…私が持っていよう」
震える手でそっと口紅を包む。
こんな忌まわしいものを自分の近くに置いていたくはないが仕方がない。
まずは洗濯だ。
名前は洗濯をしながら必死に考えていた。
(もしかしたら薬かもしれない)
(いや、もしかしたら胡蝶さんの?)
(まさかそんなはずはない…)
自分の口紅はしっかり部屋の衣装ダンスの中に隠してある。
別に隠さなくても良いのだが、ここぞと言う時に使うためにそうしているのだ。
「…本人に聞くしかない」
ちょうど昨日から出ている任務から明日帰る予定だ。
義勇が帰ってきたら聞いてやる、と心に決めたがどうにも落ち着いていられなかった。
その日の夜、名前は一睡も出来ずに朝を迎えた。
「おかえりなさい、義勇さん」
「ただいま」
義勇は名前の様子がおかしいことに気がついた。
なぜかよそよそしいのだ。
まだ夫婦になる前、隣人同士だった時でもこんなことはなかった。
困惑はしつつ、平然とした態度をとる義勇。
いつも通り少し遅い自分の帰りに合わせて名前が夕食を作っておいてくれたようだ。
居間には夕食、好物の鮭大根。
「冷めないうちにどうぞ?」
「ああ。いただく」
「いただきます」
いつも通りの食事風景と変わらないが、明らかに名前は緊張しているようだった。
義勇は悶々と考えるが答えは出ない。
そうこうしているうちに食事が終わり、いつも通り先に義勇が風呂に入り、次に名前が風呂に入る。
2人で寝室へ行き、既に敷かれてた布団に正座する。
初めて名前を抱いた日のようだな、と義勇は思った。
「…名前、どうした」
「…!」
「なにかあったのか」
「……」
「名前」
今日は自分以上に話さない名前に、義勇はどんどんと気持ちが焦る。
自分が何かしてしまったのだろうか。
名前に嫌われるようなことをしたのか。
「…名前、」
「…義勇さん、」
2人の声が重なった。