第三十一話

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どうやら私は微かに体内に残ってしまった毒で熱を出したらしい。毒の量が少なかった事と、早く医者に診てもらえた結果、ただの風邪のような症状が出ただけだった。
次の任務に向かおうと言ったが、杏寿郎くんはしっかり治るまで藤の花の家で世話になろうと言った。

彼はほとんど怪我などしていない。私は足手纏いな存在だ。そればかり考えてしまって気分が落ち込み、まだ昼餉を食べたばかりだと言うのに大人しく布団に潜り込んだ。


いつもより大人しくしている私の様子が気になるのか、杏寿郎くんは私の側を離れようとしない。

「名前さん、医者を呼ぶか?また体調が悪くなってきたのか」
「…ううん。別に大丈夫だよ」
「…本当に?」
「うん…」
「言いたい事があるんだろう。…良かったら話してくれないか。言いたくないから、言わなくて良い」

私のことをそんなに心配してくれる杏寿郎くんの優しさに、とても胸が痛んだ。


「…ごめんね、足手纏いだよね」

か細い声でそう告げると、杏寿郎くんは意外そうな顔をした。そして私の枕元で崩していた足を組みなおし、正座して私の手をとった。
まるで夢で見たあの時のように、ぎゅっと手を握ってくれた。触れた指から私の心情が伝わってしまいそうで怖い。


「俺はそんな事を思ったことはない。俺は貴女と支え合って戦ってきたつもりだ」
「…」
「それに今回の怪我は、俺をかばって攻撃を受けたせいだろう」

それは事実だった。
杏寿郎くんが敵の攻撃である毒針を受けようとしたのだ。
あの時その場には怪我人や若手の隊士が何人かいたため、全ての攻撃を避けて周りに危害を及ぼすのを避けようと考えたのだろう。

毒針を自分で受けることを厭わず、真っ先に鬼の首を切ろうとした彼を守らねばと、咄嗟に思って体が動いていた。

「でも私は、杏寿郎くんより遥かに体力も無ければ、早く怪我を治す事も出来ない。それなのに闇雲に突っ込んで行くなんて、馬鹿だよね」
「体力や治癒力に関しては、名前さんと俺は違う人間、ましてや貴女は女性なんだ。違って当たり前だ。それに名前さんを馬鹿などと思ったことなど生まれてから一度もない。今回の判断も間違いなどではない」


じわじわと視界がぼやけて、目頭が熱くなった。
泣いちゃいけないと思えば思うほど、頬を熱い涙が伝ってくる。

そんな私を彼はじっと見つめる。
握った手は離されなかった。


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