第三十二話

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杏寿郎くんは真剣な顔のまま続ける。

「俺こそ、名前さんを守るために炎柱になったと言うのに…、貴女に守られてしまった。そして貴女に怪我を負わせてしまった。申し訳ない」

私を守るため…?

「猛省している。貴女は自分の身の危険など顧みずに人を助けようとする方だと、分かっていたはずだった。浅はかに行動したのは俺の方だ」

そしてもう一度「すまない」と言って彼は頭を下げた。

布団から飛び起きて慌てて彼の肩を持ち、顔を上げさせた。うじうじと泣いていた自分が恥ずかしくなった。年下の彼にこんなにも気負わせてしまったなど。


「こちらこそ、ごめんね。杏寿郎くんがそんなに責任を感じる必要ないよ。でも、ありがとう」
「名前さん…」
「今度からはお互いに自分をもう少し大切にしよう?もちろん鬼狩りとして、人々を守るために命懸けで戦うけど、だからこそ、自分たちの命を大切にしていこうよ」
「ああ。そうだな。ありがとう、名前さん。俺は貴女に救われてばかりだ」
「えっ?そんなことないと思うけど…」

心からそう思っている、といった顔で私を見つめてくる彼に戸惑う。それに私を守るために炎柱、なんて。気を利かせて言ったとも考えられないし、まさか冗談なんて言うはずがない。
本心なのだろうか?
でも、そんなこと……

どくどくと鼓動が早まる。
いつの間にか両手を包まれていた。あたたかい彼の手は、私の手をすっぽりと包んでいる。
手から手へ、私の狂ったようにうるさい鼓動が伝わってしまうのではないかと不安になって、するりと手を引っ込めた。
意外にも簡単に手はほどけた。それはそれで残念に思う。


「もう結構元気になったし、明日には出発できたら良いな」
「無理してないか」
「してないよ。大丈夫。今度からは無理な時、ちゃんと言うから」
「…ああ。そうして欲しい」
「うん」
「なら明日の正午にでも医者に来てもらって診てもらおう。手配しておく」
「ありがとう。よろしくおねがいします」


杏寿郎くんは音もなく立ち上がり、部屋を出て行った。きっと宿主に医者の手配をしてもらいに向かったのだろう。


今日の彼の発言にはいつも以上に驚かされた。
先ほどまで繋がれていた手の指先を見る。あの時、杏寿郎くんの指を思い出す。
男の人の指は案外綺麗なものなんだな。
またじんわりと胸のあたりが熱くなってくる。このままでは熱なんて下がらない。
きっと彼といる間は、ずっと下がらない気がする。


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