第二十八話

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杏寿郎くんと共闘するようになってから私は蝶屋敷で入院するほどの怪我をしなくなった。
彼の後ろで彼の援護をする。そういう立場になった瞬間に私は何も考えずに最善の行動ができる。
このままではいけないと独り立ちしたはずなのに、結局また戻った。

杏寿郎くんは私とは正反対に、確実に強くなっている。もはや私の援護などいらないのでは?と思ってしまうくらいだ。
技にも磨きがかかり、赤く熱い炎は父親である槇寿郎さんが現役だった頃のそれを超えてしまいそうだ。


「名前さん、あそこの団子屋が美味いと聞いている。寄って休憩しよう」
「わあ。本当だ。良い香りがする」

あの頃と変わらないことと言えば、甘味屋を巡っては二人で団子を頬張ること。
外に設置されている長椅子に並んで座り「いただきます」と手を合わせてから団子をいただく。

「んん、!このお団子、中に餡子がたくさん入ってるんだね。白胡麻が合う!!」
「こちらのきなこも美味い!名前さん、ひとくち食べるか?」
「え!いいの?」

杏寿郎くんは2つの団子が刺さった串をそっと私の前に突き出した。思わず大きな口を開けて食べるところだったが、寸前で止めた。

「や、そ、そんな!いいよ!」
「何故」
「何故!?こ、恋人同士じゃないんだからー…」

そこで私は「そうだな!すなまい!」と笑いながら杏寿郎くんが団子を引っ込めると予想した。しかしそれは見事に外れる。

「名前さん、ほら」

そう言って彼は更に団子を私の口元に近づけたのだ。口角が上がり、微笑んでいるようだが目は全く笑っていない。


「いらないよ…?杏寿郎くんの分が減っちゃう」
「かまわない。美味いから食べてみてくれ!」
「う、ん…」

ニコッ!と効果音が出そうなほどの笑顔で首を傾げた杏寿郎くんに負けた。そっと口を開いて一つ団子をいただいた。

「美味しい!きなこは絶対裏切らないよね~」
「ああ。また寄ろう」
「そうだね。常連になるくらい来たいね」


なんて私も、美味しいものへの気持ちが優ってしまう。もうお団子が美味しいから別にいいか!という思考になる自分が情けない。
けれど隣で杏寿郎くんが嬉しそうに笑うから、これで良かったのかな、と思う。
彼が笑ってくれるなら。
私はそれだけで十分満たされる。


それなのに、杏寿郎くんは私の予想外の行動をしてくるのだ。


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