第二十七話

.


「お久しぶりです…槇寿郎様」
「…今更なんだ」
「私が炎柱を支えていきたいと思います。また、彼と共に戦えること、嬉しいです」
「…」
「いつまで経っても私は柱にはなれないですね。不甲斐ないです。せっかく槇寿郎様の下で勉強することが出来たというのに…」
「どうせ俺もおまえも杏寿郎も、みんな同じだ」
「貴方の中ではそうかもしれないですけど、私の中では全く同じではないです」
「勝手に言っていろ」
「……もう行きますね。また来ます」


槇寿郎さんは相変わらずだった。
むしろ私が最後に会った時よりも酷かった。髪は全く手入れをしていないようだし、着物も寝転んでばかりでしわくちゃになっていた。
あの頃の、炎柱だった頃の槇寿郎さんはもはやこの屋敷にはいない。

ただ部屋の外で私が出てくるのを待っていた杏寿郎くんは「最近の父上にしては良く話した方だ」と言っていた。


「名前さん!お茶を淹れたので、少し休んでいってください」
「ありがとう千寿郎くん」

久しぶりに会う千寿郎くんはあまり変わらないけれど、かなり家の事を一人でこなしているらしかった。千寿郎くんの淹れたお茶は香りも味も一級品になっている。

「千寿郎くん、男の子なのに凄いね」
「名前さんにそう言っていただけると、俺嬉しいです!」
「私なんて何も作れないんだから」
「じゃあ今度、一緒に夕食でも作りませんか?ね、兄上。また名前さんを連れて来てくださいね」
「そうだな!何度だって連れてくる。名前さん、この屋敷に住んでも良いんだぞ」
「そ、それは!将来の二人の奥さんに言うべきだよ…」

私はかなり本気で言ったのに、目の前の二人は嬉しそうに笑うだけだった。どういう気持ちなんだろうか。

千寿郎くんがお茶菓子を取りに部屋を出た。杏寿郎くんと二人きりになってしまった。
この屋敷に来たのが久しぶりなせいで何故か緊張する。


「本当に住んでもいい。名前さんならば」
「はは、何言ってるの?杏寿郎くんに奥さんが出来たら、私凄い邪魔者じゃない…」

自分で口に出しておいて胸がずきんと傷んだ。いつか来るであろう日を少し想像して、涙が出そうなほど衝撃を受けてしまった。

「そんな日は訪れない」
「…はい?」
「俺に妻が出来て貴女が邪魔者になる日は訪れないから安心して欲しい」
「……結婚、しないの?」
「そうとは言っていないだろう」
「…それって、」

どういう意味?

「お待たせしました!ちょうどご近所の方からお土産で饅頭をいただいたんです。俺と父上じゃ食べきれないから、困ってたんですよ」

スパーン!と障子戸が開いて慌てた様子で千寿郎くんがやってきた。きっと私たち二人が任務に向かう時間までの少しの間、共に居たいのだろう。

「美味そうだな!早速食べよう。ありがとう千寿郎!」

杏寿郎くんはさっき、どういう意味で発言したんだろう。聞きそびれてしまった。



.


prev / back / next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -