第十九話

.


そろそろ入院生活も飽きてきた頃。
回復の早さも予定より順調なのを理由に、しのぶさんへ運動をしても良いか聞きに行った時だった。

「煉獄さん、お久しぶりですね」としのぶさんの声が中庭から聞こえて、思わずすぐ側の部屋に隠れた。
二人からは死角になっていることをこれ幸いと、少しだけ顔を出して覗き見ることにした。

「甘露寺の容体は?」と杏寿郎くんが問いかけている。
どうやら蜜璃ちゃんも入院中らしい。日がな一日ベッドで過ごしていたせいで気が付かなかった。
まだ意識が戻らないとしのぶさんが不安そうな顔をして呟いた。あとでお見舞いに行こう。


「でもきっと彼女なら大丈夫ですよ。命に別状もありませんし、顔色も良いです。たくさん寝たらきっと元気になります」
「あぁ…、そうだな!ありがとう胡蝶」

大きな杏寿郎くんの声。
久しぶりに聞いた。


「そうそう。今、名前さんも入院中ですよ」

しのぶさんが突然私の名前を口にしたから、思わず部屋から飛び出しそうになった。声も出そうだったから慌てて口を両手で押さえる。

そっと物影から顔を出して、杏寿郎くんの様子を伺ってみた。眉間に皺を寄せている。
予想していたよりも深刻そうな真面目な顔つきにときめいた。

「またか。大丈夫なのか」
「はい。ずーっとベッドでごろごろしているので、きっと回復も早いと思いますよ。それに来る頻度は変わりませんが、段々と傷の数も減ってきていますし」

うう。周りのやる気のある隊士と違って私は…
……なんて自己嫌悪している場合じゃない。
杏寿郎くんは呆れていないだろうか。

「…彼女が無事ならそれで良い」

ふぅ、と小さく息を吐いて杏寿郎くんは目を閉じて、そしてまた開いた。綺麗な瞳だ。

「会って行ってはどうですか?きっと時間を持て余していますよ」
「そうだな。名前さんが良ければ、会いに行く」
「良ければなんて。きっと喜びますよ」
「…ふ、どうだろうか?」

少し困ったような表情。
私は喜ぶに決まってるのに。
杏寿郎くんがそんな自信無さそうにするなんて、珍しいと言うか。不思議だ。

それよりも杏寿郎くんが部屋に訪れてもいいように、今すぐ戻ろう。
こんなところで盗み聞きをしていたことがバレたら、きっと幻滅される。それは避けたい。


「名前さんの部屋へ案内しましょうか?」
「いや!胡蝶も忙しいだろう。自分で行くから部屋の場所だけ教えてくれ」

そんなやりとりを聞いて、私は慌てて部屋に戻った。



.


prev / back / next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -