第十八話

.


蝶屋敷の主人は胡蝶しのぶさんへ変わった。
私よりも年下なのにもう柱だ。
医者でもある。
尊敬するし、私もこんなに強い女性になりたかったと悲しい気持ちにもなる。

姉であるカナエさんとは少し親交があったが、正直しのぶさんとはあまり面識がなかった。
けれど彼女は前からこんな風だっただろうか?
きっと彼女にもたくさんの悩みや葛藤があるんだろうと思う。


「名前さん、前回より浅い傷が増えてますね」
「そうなんですか…」
「避けるのが上手くなったんですかね?」
「あ、はは。なるほど」

腕の傷は完治するのに1ヶ月以上と言われたが、なんだか痛むなぁと思っていた脚は骨折していた。
よって、蝶屋敷へ数日入院することになった。
入院すれば完治まではかなり短縮できる。


「名前さん、前から思っていたんですけれど」
「なんですか?」
「年下の隊士にも敬語を絶やさないのには理由があるんですか?」
「え?」
「ちょっと気になっただけです」
「あ、一応、仕事の仲間なので。お友達という訳ではないですし…」
「なるほど、名前さんの考えはよく分かりました。伝えておきますね」
「伝え…?え?誰に…」
「煉獄さんです」
「な、なぜですか!?」

突然、予期していなかった名前に過剰反応してしまった。
思わずしのぶさんから視線を逸らし、椅子に座り直す。


「名前さんはいつまでも心を完全に開いてはくれない、と嘆いていたんですよ。敬語がその証拠だって。たまに敬語が取れた時の名前さんは、きっと素の姿を少し出してくれているんだろうって、嬉しそうでしたよ」
「そ、そうですか…」

なぜ杏寿郎くんがそんな話をしのぶさんにしたのか、よくわからない。
けれど何故か頬が熱くなった。
今、無性に彼に会いたい。


「とりあえず、名前さんの部屋の用意ができましたよ。個室にしたので、どうぞ自由に使ってください」

蝶屋敷に入院する際に個室を用意してもらえるのは少数だ。しかも基本的にそれは柱である。

「わ、私は相部屋でいいですよ?」
「何をおっしゃるんですか。名前さんはもう柱に近い存在なんですから。他の隊士と同じ部屋なんて、相部屋になった子たちはきっと緊張しちゃって休めませんよ」
「え、ええ…」

クスクス笑いながらしのぶさんは診察室の扉を開けてくれた。
お辞儀をして外の廊下に出ると、屋敷で働く小さな女の子たちが「ご案内します」と私を見上げて笑う。

「よろしくお願いします」

視線を合わせるためにしゃがもうとしたら、骨折した脚が痛くて無理だった。
代わりにぺこりと頭を下げると、小さな女の子たちは恥ずかしそうに微笑んだ。


.


prev / back / next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -