第十七話

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ええと、いつもこういう時、杏寿郎くんは何をしていたっけ。目の前に敵がいる。怖い。
どうしよう。
そうだ、きっとこう。
炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天_____!


私の炎は小さい。
杏寿郎くんの生み出す炎とは色も形も大きさも違う。
こんな技で勝てるのか。
いつ、どんな時、どんな技を出すんだっけ。

思い出せ。
杏寿郎くんの背中を見てきて、私は何を学んでたんだ。彼の大きな背中に守られてばかりだったのか。


「苗字さん!危ない!!」
「ご、ごめんなさい!」

ああ、また私は選択を間違えた?

炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり_____!!!



結局いつも、無我夢中だ。
得意な技ばかり使っている。きっとその時その時で有効な技があるのに。咄嗟に私はそれを判断できない。
私には才能がない。
誰かの上に立つことなんて、尚更。
私にはもはや炎柱の代理さえも務まらない気がする。


「苗字さん!腕!酷い怪我ですよ!」
「あ、大丈夫です。帰りに蝶屋敷、寄ります」
「そうですね。後のことは隠に任せましょう。蝶屋敷まで送りますよ」
「ありがとうございます…」

後輩の隊士に気を遣われて、足を引きずりながら歩く。
一人になってからたくさん怪我をする。
判断の遅れや他の隊士への指示の間違い、計画性の無い戦闘。
どれも自分のせいだ。

それでも怪我の数は最初に比べると少なくなってきている。
私もそれなりに成長出来ているらしい。

杏寿郎くんの階級が甲になったと最近風の噂で聞いた。言葉通り、風柱が教えてくれた。
私はもう少しで甲になれると喜んでいたのに。
やっぱり杏寿郎くんは凄い。
最近会っていないが、元気だろうか?
蜜璃ちゃんは無事に炎の呼吸を使いこなせるようになっているだろうか。

もし、杏寿郎くんが炎柱になって、蜜璃ちゃんも炎の呼吸の使い手になったら…

「…引退しようかな」
「え!?苗字さん!何言い出すんですか!!」
「だって私、才能ないし…みんなの足手纏いですし」
「そんな事ないですって!私、苗字さんがいなくなっちゃったらやる気失いますよ」
「…ありがとうございます」
「でも、苗字さんが望むなら、仕方ないですよね。私、寂しいけど、頑張ります!」
「あはは、まだ決まった訳じゃないですから…」


後輩の顔が本当に悲しそうに歪んだ。
思わず胸を打たれて泣きそうになる。
私は知らない間に後輩に好かれていたのかもしれない。嬉しかった。



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