第十五話

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一体何がどうなったのか。
私が事前調査から帰ると、杏寿郎くんの横にはとてつもない美人が照れた様子で寄り添っていた。

「名前さん!こちらが甘露寺蜜璃、炎の呼吸を極めたいらしい。俺が面倒を見ることになった!」
「かっ、甘露寺蜜璃です!よろしくお願いしますっ!!」

ブン!と効果音が出そうなくらい大きなお辞儀をした少女は甘露寺蜜璃と言う名前らしい。どうやらこの子が新人の…。
まさか女の子とは思っていなかった。予想外の展開に頭が回らない。

「あ、えっと、苗字名前です。階級は今、乙です」
「乙!?す、すごいんですね、苗字さん!苗字さんも煉獄さんと同じくらい強いなんて、同じ女性として憧れちゃう!!」

実は最近、杏寿郎くんも乙になった。
嬉しいような悔しいような複雑な気持ちだ。
そんな事情を知らない蜜璃ちゃんは杏寿郎くんに似ている、きらきらした純粋な瞳を向けてくる。
眩しい。そして若い。


「お館様からも許可が降りました。もし名前さんさえよろしければ、また3人で稽古しませんか」
「そうですね、それも良いかも」

何も考えられない脳で、何も考えずに口に出した言葉に後悔する。

「あ、いや、私なんかよりも杏寿郎くんから学ぶ方がいいと思いますよ?炎柱様により近いのは杏寿郎くんだと思うし…」
「名前さんには名前さんの良さがあります!」
「あの、…ありがとう」


それからどうやって自宅へ帰ったのか覚えていない。
途中、お気に入りの団子屋の前を通ったのに今日は買い物をしなかった。食欲が湧かなかったからだ。

何かに焦っていた。
でも何に対してなのかわからない。
彼女に対する若さなのか、自分の実力の無さなのか、なんなのか。
気分がとても悪かった。
今すぐに帰って寝たい、その一心で足を動かした。

自宅に到着すると隊服のまま布団に寝転がって、瞼を閉じた。
こんな時はすぐに寝て、明日の朝考えた方がいい。今夜は任務がないなんて。せめて任務があれば無駄なことを考えなくて済んだのに。

体は鉛のように重かった。
脳裏に浮かぶのは杏寿郎くんの笑顔。消そうとしても消えない。
私はあの笑顔が好きだ。
あの笑顔を、もう見れないような気がしている。



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