第十四話
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刀鍛冶の里には結局10日ほどお世話になった。
その間、私と杏寿郎くんは暇さえあれば組み手や剣術の稽古に明け暮れ、もはや彼の修行どころではなかった。
とにかく気を紛らわせたかったのだ。
隊服ではなく着物姿の彼と四六時中生活を共にしていると、何か自分の中で良くない感情が生まれそうで怖かった。
「名前さんがこんなにも稽古を付けてくれるとは思っても見なかった!ありがとうございました!」
「いえいえ…。時間がたくさんありましたしね」
「たくさん勉強になりました!」
「それなら良かった…」
稽古終わり、上半身裸になって井戸の水を頭から浴びる彼には最後まで慣れることは無かったけれど…。
それでもやはり身体を動かしていれば無駄なことを考えずに済むし、少しは私も剣士として成長できた気がする。
「え?炎柱様に"育て"を希望…」
それから暫くは平和に日々任務に勤しんでいたが、私たち二人の関係が変わる出来事が起きた。
お館様に私と杏寿郎くんは突然呼び出されたのだ。そこで相談されたのは、炎の呼吸を身につけたい新人がいるという話。
けれど今の槇寿郎さんにはそんな事出来るわけがない。最近は私にも目を合わせてくれなくなった。もうどうして良いのか分からない。
「一度、二人から槇寿郎に話してみてもらえないかな」
お館様からそう言われれば断れる訳もなく。
私と杏寿郎くんはいつもより心なしか沈んだ気持ちのまま帰路に着いた。
結果は想像通り。
私が何を言っても、杏寿郎くんが何を言っても槇寿郎さんは首を縦には振らなかった。
新人の子は特殊な身体の作りをしているらしい。だからこそ柱から指南を受けるべきだとお館様は言っていたのに。
「…すみません名前さん。俺が不甲斐ないばかりに」
「杏寿郎くんには何も非はありませんよ…」
二人並んで縁側で空を見上げた。
秋らしい澄んだ空気が気持ち良いが、今はそんなことを言って感傷に浸っている場合ではない。
「一度本人に来てもらったら良いのではないでしょうか!」
杏寿郎くんは上を向いたままそう言った。
確かにその手もある。もしかしたら才能に気がついた槇寿郎さんがやる気を出してくれるかもしれない。
可能性としてはかなり低いだろうが。
「そうですね。早速明日にでも来てもらいましょう。隠に言っておきますね。
私は明日、事前調査のために隣町へ行ってきます。その間、杏寿郎くんお願いしますね」
「任せてください」
一体どんな人なんだろうか。
お館様が直々に炎柱への協力を頼むくらいだ。
きっと柱になる素質があるような人なんだろう。
自分の今の実力と立場が少し気持ちを不安にさせた。
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