21話「夫婦と爛漫」

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ずいぶんと身体が重くなってきた。
苦しくて寝返りをうつのもやっとだ。
悪阻がなくなった代わりに身体が自分のものではないかのように動きにくくなっていく。

あとふた月もすれば腹の子に会える。
だから頑張ろう。

名前は唇を噛んだ。


「…起きなきゃいけないんだけれど」

しかしだるい。

5日前から夫の義勇は任務で帰って来ない。
手紙と呼ぶにはどうかと思うほど短い文章が書かれている文が毎日のように送られて来るし、無事に鬼を退治できたと昨日の手紙には書いてあった。

だが帰るのは今日の夕方ごろだと言う。
義勇もいないし特にこれといってやらなくてはいけないこともない。

それ故に名前は布団から出れずにずっともぞもぞしていた。
障子からは燦々とした太陽の光を感じられる。
今日はぽかぽかしていて気持ちがいい。

(あぁ…また眠ってしまいそう)


瞼が重い。
ゆっくりと視界が狭まってくる。

(もう少し、こうしていよう)

眠りにつく、寸前だった。


パンっ!といい音がして目の前の障子戸が開いた。
そして眩しくなる視界。
逆光で全く姿が見えないが、名前にはそこに立っている人物がすぐに分かった。

「義勇さん…!」
「すまない、眠っていたのか」
「ご、ごめんなさい。別に具合が悪い訳ではないんです!」
「謝ることはない」


まだ夕方には早いが、きっと身重の妻を心配してとんで帰って来たのだろう。
少し額に汗を滲ませた義勇が名前をゆっくりと抱き起した。

「眠かったのか?」
「はい…」
「胡蝶が妊婦はいつも以上に眠くなると言っていた」
「そ、そうなんですか」
「ああ。だから無理に起きなくてもいい」
「大丈夫です。義勇さんが帰ってきてくれたから、目が覚めちゃいました」
「……すまん」
「嬉しいことです」

名前は義勇をそっと抱きしめた。
あたたかい。
背中は日差しのおかげなのか、より一層ぽかぽかとしている。


「…いい天気ですね」
「そうだな」

義勇の額にはりついた髪に視線を向けながら名前はつぶやいた。
光に包まれていて、毛先が透けるように輝く。


「…早く会いたくてたまらない」
「え?」

突然の義勇の言葉に名前は首を傾げる。
純粋に意味を理解できなかった。

そんな不思議そうな顔をする名前と向き合って、義勇は少しだけ微笑む。

「…俺たちの子、だ」
「ふふふ、そうですね」

相変わらず口下手な夫に名前は苦笑いした。



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