22話「夫婦と混乱」
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「義勇さん!!!」
突然名前の叫び声が聞こえた。
任務が終わり、朝方帰ってきた義勇は食事の前に風呂に入ることを勧められた。
その通りにまずは湯船に浸かってしっかりと汗を流し、身体を清めた。
そしてこれからしなくてはいけない雑務のことを考えつつ着替えている最中。
台所で支度をしている名前の叫び声が聞こえたのだ。
やはり常に側にいた方が良かった。
後悔しても遅い。
着物が乱れているのも気にせずに名前の元へ急いだ。
台所には中腰になって机につかまっている名前。
顔色は真っ青になっていた。
義勇は同じように自分の顔が青ざめていくのを感じながら、名前を抱きとめた。
「どうした!」
「…は、はすい」
「?はすい?」
その時、足元が濡れていることに気がついた。
井戸の水をこぼしてしまったのか?
いや、そんなことで自分を呼ぶはずがない。
義勇は焦る気持ちの中で必死に状況を整理しようと思考を巡らせる。
「…お医者、を、呼んできてください」
「やはりどこか痛めたのか!」
「…破水、です。えっと、これから赤ちゃんが産まれるんですっ」
自分も混乱しているであろう名前が荒い息のまま早口に話した。
「う、うま、れる…?本当なのか…!?」
「っう、義勇さん!お医者さまと、えっと、産婆さんを…!」
こうなった時のために以前から2人でどこの誰に連絡するかを確認し合っていた。
(義勇が不在時は近所の親しい家に名前が助けを求めることにしていた)
はずなのに2人は混乱と動揺でなかなか動き出すことができない。
しかし、名前がつらそうに顔を歪めたことに義勇は気付き、ハッとする。
今彼女を助けられるのは自分しかいないのだ。
「…すまない名前。今医者と産婆を呼んでくる。それまで耐えられるか?」
「今はまだ大丈夫です。ちょっとお腹が痛むけど、歩けます」
「支えるからつかまれ」
「はい…」
名前は震えながらも立ち上がり、義勇に支えられながらゆっくりと寝室に移動した。
義勇は事前に聞いて準備をしていた道具達を押し入れから引っ張り出して名前の横に置くと、颯爽と屋敷を飛び出していった。
「義勇さん!お気をつけて…!」
こんな時にまで自分の心配をしてくれる愛おしい妻を想いながら義勇は走った。
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