20話「夫婦の再会」
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名前の悪阻が落ち着いたのは、お腹が妊婦らしく膨れてきた時だった。
親族に助けられつつ冨岡邸に戻ってきた名前を見て、義勇はとても驚いた。
最後に見た時よりもかなりお腹が大きくなっていたからだ。
途端に「名前は妊娠した」「自分は父親になる」という実感が湧いて手汗がじわりと滲む。
名前はそんな義勇には気づかず、久しぶりの夫との再会に涙を流して喜んだ。
「義勇さん、私は大丈夫なので居間で待っていてください」
「……いや。ここにいる」
名前が帰ってきてからというもの、義勇は任務や雑務がない時間は常に名前のあとを追いかけてばかりだ。
食事の支度に洗濯、家の掃除。
ありがたいと思う気持ちと申し訳ないという気持ちの狭間で名前は困る日々だ。
たしかに名前は悪阻に対しての悩みは消えていたが、今度はお腹が大きくなったことに対しての悩みは増えた。
すぐに足は浮腫んでしまうし、思うように身動きがとれない。
転ばないように慎重に歩かなくてはいけないのに、お腹のせいで足元がよく見えない。
そしてとても苦しい。
着物を脱いでしまいたい衝動に駆られる。
だから義勇がそばにいてくれると、困った時に手助けをしてくれるから助かってはいる。
しかし鬼狩りという激務をこなしている夫を少しでも休ませてあげたいとも思っている。
「助けてもらいたい時にはちゃんと呼びますから」
「それでは間に合わないかもしれないだろう」
「うーーんん…」
心なしかムッとしている義勇が可愛くて、名前は言い返さずに腕を組み唸った。
久しぶりに会って共に生活を再開すると、今まで会えていなかった分とても義勇を愛おしく思う。
「わかりました。側にいてくださってかまいません。でもずっと立ちっぱなしだと疲れてしまいますよ?」
「平気だ」
「そこに座って待機しててくださいね」
「……わかった」
きっと柱である義勇であれば、いくら少し離れた位置に座っていたとしても名前に何かあれば一瞬で側に行くことが出来るだろう。
「妻の言うことをよく聞け」と、どこかの音柱が助言してくれたことを思い出す。
義勇は今までよりもつらそうに作業する名前のためにも、言うことは出来る限り聞こうと決めたのだった。
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