19話「夫婦と困難」

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「姉さん、最近夜は眠れてないの?」

妹のヨリ子が苦笑いする。

悪阻は1週間目からだいぶ落ち着いた。
きつい匂いにはやはり吐き気をもよおしてしまうが、通常の生活にはあまり支障がない。
ただ酷く眠くなってしまうようになった。

昼間の明るい時は眠りにつけるのだが、夜になると眠れなくなる。
眠いのに眠れないのだ。


隣に義勇がいないと不安になる。
また誰かに襲われるんじゃないかとどんどん震えが止まらなくなる。
暗闇が恐ろしい。

父も母も弟もいるのに、やはり義勇でないと安心できないのだった。


「悪阻も良くなってきたし、帰ったらいいのに」
「でもこんな状態で帰っても迷惑になるだけだと思う…」
「そんなこと思うような人に見えなかったよ?」
「そうだけど。私の気持ち的に今はつらい…」


ヨリ子が肩を揉んでくれる。
彼女も半年後には結婚して他県に嫁ぐことが決まっており、こうして2人の時間を過ごせるのは貴重な時間だ。

いつの間にか弟たちも立派になっていた。
長男の晃一郎は見合いで知り合った女性と婚約中。
正式に奥さんが来たら私は邪魔者になるだろうが、まだ先のことらしい。

次男と三男は未だにクソガキのままだった。


「ねえヨリ子、今夜一緒に寝てくれない?」
「前も一緒に寝たじゃない。それで、私は女だし妹だし頼りないって言ってたくせに」
「いないよりマシ」


早くこの悪阻が終わればいいのに。

このまま帰ってもきっと食事を作ることができない。
そんな状態で帰っても何の意味もない。
愛する夫が仕事から疲れて帰ってきたのに食事の準備ができていないなど、妻失格だ。



突然黒い影が目の前を横切った時思えば、相手はカラスだった。
しかしただのカラスでないことに気がつく。

「カァ!カァ!名前!手紙!預カッタ!」
「きゃあ!姉さん、何このカラス!」
「落ち着いて、義勇さんのカラスなの」


ふわりと舞い降りると己の足を名前の前に持ち上げた。
そこには手紙が結ばれている。

恋い焦がれている相手からの手紙ということもあって、名前ははやる気持ちを抑えてそっとカラスの足から紙を取り外した。


「…姉さん、内容は?」
「………体調が良くなったら、迎えに行くから帰ってこい、1人は落ち着かない、って書いてある」
「ニヤニヤしてるよ…」

自分と同じように義勇も寂しいと思っていることを知って嬉しくなる。
遠く離れた夫を想い、手紙を胸元に抱きしめた。




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