39 先生の元カノC

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不安なまま先生のアパートの扉を開けた。
大丈夫、今度は元カノはいない。

しばらく待つと先生が慌てた様子で帰ってきた。
そして着替えもすることなく、私の前に正座した。
私はびっくりしたが、そのままソファーに座り続けた。
そして先生が突然土下座したのだ。


「すまん!!!」
「……それってさ、元カノとエッチでもしたの?」
「違う!!!」

先生が今度は勢いよく立ち上がり、そのままにしてあるゴミ袋を開けた。
意味がわからず中を覗くと、私の持ち込んだマグカップが粉々に割られて無惨に破片となっている。

「…なに?これ」
「あいつが割った」
「なんで?」
「実は、あいつが土曜の深夜に勝手に部屋に入ってきたんだ。合鍵を返してもらったんだが、その鍵を複製してたらしい」

え?怖い。
どういうこと?

「今の男に浮気されたらしい…。男が知らない女とホテルに行ってることを知って、それで俺のところにそのまま来たんだ。……寄りを戻そうと言ってきた」
「それで?」

心臓が重い。痛い。

「断った」
「……なんで日曜の昼までいたの?先生寝てたし」
「それから口論になったんだ。君のマグカップを見つけて。俺も、彼女と付き合っている時に浮気していたんだろと言ってきて…」

それは当たってるようなものだから耳が痛い。
言い逃れできない。
マグカップを割られただけで良かった。
あの時持っていた私の服は破られたりしなかったし。


「何時間も言い合いになって、トイレに行ってる隙に彼女が包丁を持ち出して…」
「ええ!先生、大丈夫だったの?怪我は?」
「してない。リストカットしようとして持ち出したんだ」
「え…」

もしかして、メンヘラ?
あんまりメンヘラって言葉は好きじゃないけど、あまりにも典型的な話だ。
まあでも確かに煉獄先生好みの「守りたくなる女子」ではある。


「もちろん止めた。それからずっと泣くから、仕方なく側にいてやった。もちろん何もしてない。変に気を持たせるような事はしないように気をつけた」
「…へえ」
「夜が明けた頃にやっと落ち着いて、彼女はそこで眠ったんだ」

そう言って先生は私の座るソファーを指さす。
なんだか嫌でソファーから降りた。


「だから俺も寝室に戻って寝た。起きたのは日曜の15時だ。その頃には誰もアパートにいなかったから、君が来ていたなんて、知らなかった」

先生はもう一度、「すまない」と謝った。

「何か彼女にされたんじゃないか。君こそ、どこも怪我はしてないのか?なんで起こしてくれなかったんだ…」
「大丈夫だよ、何もされてないし。何もなかったよ」
「本当か?」
「うん」

切なそうに私の顔を覗き込む先生に胸がギュッとした。
そして先生は項垂れた。
私はそのいつもより頼りなく見える先生の頭を撫でた。



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