33 先生からのお誘い

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「俺はこの香りが好きだ」
「…え?」

煉獄先生はいつも通り、私を後ろから抱きしめつつ髪の香りをくんくんと嗅いでいる。
たまに首筋でそれをやられるとぞわっとするからやめて欲しい。


ソファーで2人座って天気予報を眺める。
最近いい天気が続いていて、今までは我慢できていたが先生とどこかへ出かけたくなった。

「だから同じシャンプーをわざと選んだの?」
「ああ。変えてほしくなかった」
「へえー。もしかして、元カノも同じの使ってたとか?」
「違うが」

先生の声が突然低くなる。
ん?と思ったのも束の間、脇腹を突然くすぐられて飛び跳ねる。

「やだ!なんで!」
「ははは!」

倒れ込んでわちゃわちゃと絡まる。
こんなことを1日に何回もする。


夏休みが始まる前は会える時間が少なくなると思っていたのに、実際は真逆だった。
私は友達と遊ぶ日だったり、家に用事がある日以外は先生の家に入り浸っている。
先生も特に何も言わない。
でも必ず水曜日は実家に帰るみたいで、私もその日は実家に帰る日にした。

先生は仕事はあってもちゃんと夜には帰ってくる。
たまに宇髄先生と飲みに行ったりして、先に寝てろとメッセージが来る時がある。
朝起きるとちゃんと先生は隣で寝ている。


ずっとこんな日が続けばいいのに。
先生にくすぐられる中、頭の片隅でそう思った。

「名前」
「なんですかあー」
「今夜も泊まるだろう?」
「え?それはもちろん」
「今夜は早く寝て、明日の早朝に出かけないか?」
「えっ?早朝?どこに?」
「海だ」
「うみ」

海。
頭の中で何度も反芻した。
この時期はたくさん人がいるだろうに。

「日が登る前に行こう。穴場を知っているんだ」
「…行きたい」
「せっかくの夏休みだ。君にとって高校最後の夏だろう。それっぽいことをしよう」
「うん」

珍しく先生が無邪気だ。
胸がドキドキする。
さっきまで「暑いから離れろ」とか言ってたのに。


そういえば明日は先生が休みの日だった。
さっきの天気予報でも晴れだった。
俄然、やる気が出てくる。

「私、お弁当作る」
「良いな」
「サンドイッチにしよう。先生は具材、何が良い?サツマイモ以外ね」
「む…、カツサンドはよく食べる」
「じゃあカツサンドと、アボカドサーモンチーズと…」
「なんだその洒落た具材は」
「美味しいんだよー、きっと、食べてびっくりするから!」


「デートみたいで楽しいね」と言う言葉はギリギリで口に出さなかった。
また先生に拒否されるのが怖かったから。
私たちは付き合っていない。
そのことが最近、少し私を悲しくさせる。




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