26 先生とはじめての喧嘩C
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ここにいたら危険だ。
今すぐに先生の元へ戻ろう。
もうチョコプリンとかどうでも良い。
「逃げるな名前」
「帰ります…!」
「帰さないぞ!杏寿郎の話を聞かせろ!」
「コンビニでお菓子奢ってあげるから!帰らせて!」
リビングの床でもはや取っ組み合いのようにごちゃごちゃと絡み合っていると、玄関の扉が開く音がした。
2人で固まる。
そして顔をのぞかせたのはまさかの狛治だった。
「狛治!!助けて!」
「は?!」
猗窩座の力が緩んだ隙にさっと彼から抜け出す。
慌てて狛治の後ろに逃げ込んだ。
「え?名前ちゃん?」
「こ、恋雪!」
どうやら2人は戻ってきたようだ。
なんて良いタイミングなんだろう。
また神様はこんな私を助けてくれるの?
それともご先祖さま?
「名前、何があったんだよ」
狛治が引いている。
さっきの体勢と言い、きっと良からぬ勘違いをされている。
恋雪には見えていなかったらしく、きょとんとしていた。
とりあえず猗窩座が比較的大人しくなったので事情を説明する。
話を聞き終えて、狛治はぎろっと猗窩座を睨んで威嚇したが、睨まれた本人が笑っているから多分効果はない。
狛治と恋雪は、最初2人でいつも通りに恋雪の家の方で週末を過ごすはずだったようだ。
しかし狛治の両親が不在と知った恋雪が、猗窩座の分の食事も作ってあげたいと言い出したためにこちらの家に戻ってきたらしい。
恋雪はなんていい子なんだろう。
これでは猗窩座が恋雪の言うことを素直に聞くのも分かる。
「とりあえずもう私は帰るね。疲れたし。もうどうでもいいや」
「おい名前。コンビニでお菓子を奢ってくれるんだろう?」
「ああ…」
なんでそんなところ覚えているんだろう。
既に猗窩座は立ち上がって自分も出かける気満々だ。
恋雪に目で訴えかけると、通じたらしい。
「狛治さんも行ってあげてください。私はお留守番してますから」
「でも恋雪さん…」
「外で名前ちゃんがまた猗窩座さんに襲われたら大変だから…」
「たしかにそうですね」
「俺はそんなことしないぞ」
早く先生に会いたい。
会って謝ってぎゅっと抱きしめてもらおう。
してもらえなくても自分でしよう。
とにかく先生が恋しくて仕方ないから、狛治と猗窩座と早くコンビニでの買い物を済ませてしまいたかった。