9 先生のアパート初訪問C
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先生はそれから16時くらいまでぐっすりと眠っていた。
途中で乾いてしまった冷えピタを変えたり布団を掛け直してあげたり。
それから大きな鍋に一杯のシチューを作った。
ごはんも炊いたから流石に足りるだろう。
「苗字…」
「あ、起きたの?これ、シチューたくさん作ったよ!これでも足りなかったら冷蔵庫にあるゼリーと、あとみかん食べてくださいね。それと朝ごはん用にホットケーキ焼いておいたから、チンして食べて」
「全部作ったのか」
「そうだよ?全部簡単な料理だし。誰でも作れるよ」
「……そんなことはないだろう」
「先生ももっと料理できるようにならないとね」
「…」
もう毛布はかぶっていない。
すっかり元気になったようで、さっきのようにふらふらしてない。
目もはっきりとこちらを見ている。
「じゃあ、私もう帰りますね」
外はすでに日が落ちて薄暗い。
真っ暗になる前に家に帰らなくては。
このまま真っ暗になるまで居座って「泊めて」なんて言うのはさすがに初日からはするわけにはいかない。
今日は帰る方がいいと判断した。
来た時に言った通りに料理した時に出たゴミは袋に二重にして紙袋に突っ込んだ。
それと自分の髪の毛が落ちてないか床をチェック。
大丈夫そう。
私は黒髪でセミロングだけど、彼女さんは茶髪でショートカット。
彼女さんにはバレるわけにはいかない。
「帰るのか」
先生は確かめるように呟いた。
「私が泊まらせてとか言うと思った?」
そう聞くと、無言で頷く。
「私は慎重派なので。また来ます」
「来なくていい。いつか君のせいで犯罪者になりそうだ」
「バレなかったら何しても良いんですよ」
「聞き捨てならないな」
「私、ちゃんとしますから。私たちの関係は二人だけの秘密です」
そう言い残して先生のアパートを出た。
付近に住んでいる生徒に見つからないように気をつけながら。
まあ先生の家があそこだと知ってる者はほとんどいないだろうけど。
先生が寝ている間に勝手にロックを外して友達追加しておいたLINEを見る。アイコンはおにぎり2つでヘッダーはまさかの美術の宇髄先生が描いた花の絵だった。
かなり仲がいいとは知っていたけど、まるでこっちがカップルみたいだなと思う。
ちなみに彼女さんに覗かれた時用に私の名前は『苗字翔太』にして登録して来た。
弟の名前だけど。
とりあえず『また遊びに行くぜ!先生!絶対に開けてくれよな!』とメッセージを送っておいた。