-50 暗澹

.

「名前!面白いことがあった!」

杏寿郎さんが大切な会議があるからと忙しそうに出て行ったのが2日前。
帰ってきて早々にニコニコと笑いながらそんなことを言い出した。

「まずはお茶でも飲んでゆっくりしてください」
「ありがとう」


いつものように縁側に腰掛ける杏寿郎さん。
今夜またすぐに出なくてはいけないから隊服のままだ。
千寿郎君もお茶菓子を持ってきてくれて、3人並んで空を見上げる。

「今回の柱合会議、おもしろい兄妹に会った!」

杏寿郎さんは楽しそうに話を聞かせてくれた。
正直、自分は鬼殺隊のことをほとんど知らないものだから、話を聞いていても半分くらいしか理解できなかった。
たいりつ違反?しなずがわ?鬼の妹??
お館様、は分かる。
それでも頷き、相槌を打って話を聞けば杏寿郎さんは満足したようだった。

「俺の継子にしたいくらいだ」
「継子?」

継子については千寿郎君が説明してくれた。
どうやら杏寿郎さんの指導はとても厳しく、みんな逃げていくらしい。
けれどその出逢った少年は自分の継子になれる素質があるとかなんとか。

杏寿郎さんはそんなにお厳しい方だったのか。
なんてぼんやり思った。
私は普段、家にいる彼しか見ていない。
たまに隠という謎の人物たちや、剣士の子たちが屋敷にやっては来るが。
ほとんど私とは関わらない。
杏寿郎さんの仕事は邪魔してはいけないから、そういう時は決して彼の部屋に入らないようにしている。

「任務中の杏寿郎さんを見てみたいです」
「ん?ははは、それは困るな!」
「何故ですか?」
「そんな危険な場所に君がいたら、気が気でない。集中できるか怪しいところだ」

いつものように豪快に笑ってそんなことを言っているが、本当は私がいても彼はきっと大丈夫だと思う。


「杏寿郎さんはとってもお強いから、きっとどんな鬼がいても大丈夫でしょうね」
「…そうだな!さて、そろそろ準備をしよう」

杏寿郎さんはすくっと立ち上がり、自室へ向かう。
これからの任務のために集めた報告書を確認し、それから自らが付近の偵察をするらしい。

鬼が出るのに合わせて杏寿郎さんはよく夕方や日の沈んだ頃に出かけていく。
柱というものは本当に忙しい。
ちゃんと寝ているのか心配になる。


「そうだ、姉上!頂いた文旦の皮を干していたんです。今夜湯船に浮かべたらどうでしょう?」
「そうですね。私も今、杏寿郎さんにしっかり休んでもらいたいと思っていたところです」



prev / back / next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -