夫婦という関係

.


「あ!あそこに猫がいますよ!」
「……そうか」


名前と結婚して3年目。
炎柱の煉獄の親戚だという彼女を色々あって自分が貰ってしまったことに申し訳なさを感じる。
紹介して来たのはもちろん煉獄だ。

代々鬼狩りを生業にしている煉獄の家と密な関わりがあるため、柱の嫁として最適などと言っていた。
たしかに名前は自分のサポートをしっかりしてくれる。

だが自分はどうだろう。
こうしてたまに家に帰った時に、一緒に散歩するくらいしか彼女にしてやれることがない。

「あ、義勇様は動物お嫌いでしたっけ?」
「……」
「こんなに可愛いのに」

ああ、またこうやって彼女を失望させてしまった。


柱の中で大切な名前を預けられるのは冨岡しかいないと煉獄が結論に至ったのはなぜだっただろうか。
確かに既に嫁がいる宇髄やいつもネチネチとした伊黒などよりは自分はマシかもしれないが…。


「さっきから何を考えていらっしゃるんですか?」
「…なにも」
「眉間にシワが寄っていますよ?」
「そうか」
「またお仕事のことですか?今度はいつ行かれるんですか?」

名前は煉獄の親戚だからなのか、元気だし好奇心旺盛だ。
俺なんかといて楽しいはずがない。
こうしてたくさん質問してくる名前にちゃんと答えてやることもない。


「おまえは俺で満足してるのか」

思わず立ち止まり、聞いてしまった。
気になり出したら止まらなかったのだ。

名前はポカンと俺を見上げていた。

「なぜ俺なんだ。俺よりももっと…」
「………義勇様は私がお嫌いなのですか?」

悲しそうな顔をしてそんなことを言わないで欲しい。
自分はもう愛してしまっている。
目の前にいる可愛らしくもあり、頼もしい素敵な女性を。

「俺は名前を大切に想っているからこそ、おまえには幸せになって欲しい。俺といてもおまえは幸せになれないだろう」
「こんな時ばかり饒舌なんですね」
「…いや、」

名前は目を伏せ、俺に背を向けてしまった。
どうしたらいいのか分からず、咄嗟に上げた中途半端なところに浮く手を引っ込めた。

「杏寿郎様は貴方をよく見ていました」
「?」
「いつも困った人に手を差し伸べていたと」
「…記憶にない」
「私もよく見ているから本当のことなんです」

自分が誰かを助けることはある。
もちろん鬼からだ。
だが手を差し伸べたことなどあるだろうか。

「炭治郎くんのことを聞きました。彼に貴方は手を差し伸べましたよね」
「…ああ」
「他にも、色々あるんですよ。自分じゃ気付いてないみたいですけど」

くるりと振り返った名前は笑っていた。

「そうやって自然に人に優しくできる貴方だから、杏寿郎様も貴方を選んだし、私も好きになったんです」
「…おまえは俺が好きなのか」
「当たり前じゃないですか!」

少し怒ったような、びっくりしたような名前はさりげなく俺の両手を握った。
嫌じゃなかった。
むしろ、あたたかな名前の手は心地よい。

「こうして私を気遣って散歩してくれるところとか、本当に好きです」
「そうだったのか」
「はい。私、義勇様のことを本当に心からお慕いしているんですよ」

だからそんな悲しいこと言わないでください、と名前は俺の胸に顔を埋めた。

「俺で、いいのか」
「貴方じゃなきゃダメなんです」
「……俺も」
「え、」
「俺もこうして共に生きていく妻が名前意外、考えられない」

今まで見たことがないくらい名前は顔を真っ赤にして、潤んだ瞳で俺を見つめている。
愛おしいと思う。

こんなふうに口下手な俺に真剣に向き合ってくれる名前が大切すぎて、今日みたいに怖くなってしまうのだ。

そっと抱き寄せると名前は「やめてください!」と声を上げた。

「なぜ嫌がる」
「外ですからここ!続きは家に帰ってからにしましょう」

イタズラっぽく笑う名前。
そんな彼女と手を繋ぎ、今日もいつもと変わらない散歩コースを歩いた。



end


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