-23 薄倖

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「数年前に亡くなった私の祖父は、かつて苗字家に婿入りして商売を成功させた煉獄家出身の先祖を大変尊敬している方でした。
ですから毎年、年に数回は必ず煉獄家へのご挨拶に伺っていたのです。
もちろん槇寿郎様が炎柱だった時も、続いておりました。

17年前のことです。
毎年恒例の煉獄家への挨拶へ祖父は伺いました。
そしてその帰り道、辺りが暗いからと言って槇寿郎様が駅まで送り届けると言ってくださいました。
お言葉に甘えてそうしてもらったそうです。

その時でした。
2人はたまたま鬼に襲われている親子を見つけたのです。
祖父はその親子を安全な場所へ移動させ、槇寿郎様はいとも簡単に鬼を倒してしまった。
そんな立派な鬼狩りである槇寿郎様を見て祖父はとても高揚したと言っていました。

助けた親子ですが、父親は母親と子を庇ったらしく既に亡くなっていたそうです。
そして母親の方も深い傷があって血が止まらず、手遅れの状態でした。
でも子どもだけは両親に守られて無事だったのです。

母親は最後の力を振り絞って我が子を槇寿郎様と祖父に差し出して「どうかこの子を頼みます」と言って息を引き取ったのです。

その時、先ほど素晴らしい活躍で鬼を退治してくれた槇寿郎様の姿を思い出し、祖父は自分も人を助けたいと強く感じたと言っていました。
「この子は私が連れて行って面倒を見ます」と祖父は決心し、槇寿郎様に伝えたそうです。
その時の子どもというのが名前なのです。


名前は一歳でした。
その頃、まだ苗字家は商売繁盛で余裕がありましたから父も母も名前を我が子のように受け入れたようです。
私と名前は同い年だったので、怪しまれないように名前の方がひとつ下ということにしたのです。
ですから名前は本当は今18歳です。

しかし祖父が亡くなって父が跡を継いでからは上手くいかないことばかりでした。
どんどんと家も父も廃れていきました。
そこで邪魔になってしまったのです、名前が。


名前は町でも有名な貧乏な家の息子と恋仲にありました。
自尊心が強く見栄を張ってばかりいる父はそれがどうしても許せなかったようです。
いくら衰退しだした苗字家とは言っても、この町ではかなり有名な屋敷だったのです。
そこの娘が町一番の貧乏人と恋仲なんて、耐えられなかったのでしょう。


そこで父は槇寿郎様へ会いに行ったのです。
「あんたがうちに押し付けた娘は厄介者だ。元はと言えばあんたが鬼から救った命。名前の命はあんたのもんだ。だからあんたに名前は返す」
そう言ったと、父本人から聞きました。

きっと槇寿郎様も父に言いたい事はたくさんあったでしょう。
しかしさすが、炎柱だった方ですね。
すぐに了承してくださったそうです。
本当にお恥ずかしい話です」



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