-24 昂進

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名前の姉から一方的に語られたその事実に、言葉が出なかった。
よもやそんな事が起きていたとは。

確かに何故、いつも酒浸りな父上が突然名前を俺の嫁にするなどと言い出したのかさっぱり検討がつかなかった。
だが今の話を聞けば納得できる。
居場所がなく、邪険に扱われている名前を案じたのだろう。

「…この事は、名前自身は知っているのか?」
「いいえ。この事実は苗字家の名前以外はみんな知っています。名前だけ、知らないのです」
「…よもや」
「ですから内密にお願いいたします」
「もちろんだ!」

ちらりと時計を見る。
内容が濃かったからなのか、時間がかなり経ったと錯覚していた。
思っていたよりも時間は進んでいない。


「名前にはもう帰る場所などないのです。ですから煉獄様、どうか名前を末長くよろしくお願い致します」

名前の姉は身を屈めて綺麗に平伏す。
慌ててそれを止めるように言っても、彼女は言うことを聞かない。
少々無理矢理だが肩を掴んで顔を上げさせると、彼女は泣いていた。

「すみません…。私は名前と一番仲が良かったものですから……名前には幸せになってもらいたいのです」
「ああ!裕子さん、任せてくれ。俺は必ず名前を幸せにしよう。安心してほしい」
「…煉獄様は、名前のことをどうお思いですか」

そう聞かれた時、もう自分の中で答えは出ていた。

「…そうだな。俺は名前を好いている。まだ出会ってから何日も経っているわけではないが、この気持ちは本物だ」
「…ありがとうございます。そう言っていただけて安心いたしました」

彼女は泣き笑いしながら、また深々と頭を下げた。


そうだ、俺は名前を好いている。
いつの間に、何がきっかけかも分からない。
しかし「好きだ」という気持ちはしっかり自信を持って言える。
あの不器用な彼女らしい笑顔ばかり考えてしまう。
任務中も任務終わりも、早く家に帰って名前に会いたいと思ってしまう。
理由や意味などは分からないが、名前に対するこの想いは俺にとって大切なものだと思う。


「時に裕子さん、名前は恋仲の男がいたのか?」
「…はい。実はそうなのです。貴方に伝えるべきではなかった。申し訳ありません……」
「いや、いいんだ……。今、会っているのはその男なのか」
「……はい」

考えるより先に体が動いた。
いきなり立ち上がった俺に名前の姉はびくりと肩を揺らした。

「本当に名前は俺の元へ帰るのか」
「…帰るはずです。彼には、お別れを言うのだと文に書いてありましたから」

だからと言ってじっとしている性分ではない。
彼女の制止を振り切って宿の外へ向かった。




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