-20 東雲

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何故かまた杏寿郎さんと共に旅に出ることになってしまった。

機関車に乗るのは煉獄家へ向かう道中を含めてもたったの2回目。
駅で切符の買い方やお弁当まで、色々と杏寿郎さんが世話を焼いてくれた。
彼は私の落ちぶれかけている生家とは違って立派な御家に生まれ育った人。
だから教養もしっかりなされているからなのか何でも知っている。

まだ空が白ける前の始発の列車に乗った。
これから乗り換えもある。
向かい合って座ると、どこへ視線を向けて良いのか分からなくなってしまう。

「名前、少し早いが弁当を食べないか?」
「はい。私、駅のお弁当は初めてです」

2人のお弁当は隣の席に積み上げられている。
もちろん一箱以外は全て杏寿郎さんの分だ。
とても高価な寿司弁当を買ってくれた。

「名前は魚は何が好きなんだ?」
「鰯…です」
「ははは!鰯か!」

何が面白いのか杏寿郎さんはぱくぱくと寿司を頬張りながら豪快に笑う。
それでも何故か上品に見えるから不思議だ。


全ての弁当を食べ終えて、のんびり流れ行く風景を眺めている時だった。
同じように車窓の先を見つめていた杏寿郎さんが突然こちらを向いた。

「俺はきっと千寿郎より君を知らない。だから聞ける時にたくさん聞こうと思う!いいか?」
「なんでも答えます」
「では最初に、逆に俺に聞きたいことはないのか?」
「…」

聞きたいことはたくさんあった。
でもいざとなったら出てこないもので、思わず首を傾げて考え込む。

「私の作る料理に不満はありませんか?」
「ん?ない!」
「体の調子はいかがですか?」
「特に問題ない!が、腕はあまり動かせないな」
「…では、私に直してもらいたいところはありますか?」
「んん…そうだな。前にも言ったがもっと素顔を見せて、笑って欲しい!」
「善処します…」

杏寿郎さんの言葉に胸が熱くなる。
苦しくなって、思わず自分の胸をそっと撫でた。
これじゃあ意識してしまって思うように笑えない。


「じゃあ俺からも質問しよう!」
「はい」
「煉獄家に来てからどうだ?最初よりも慣れたか?」
「ええ。槇寿郎様にはまだ気を許してもらえていないかもしれないですが、千寿郎君のおかげですっかり慣れました」
「なら良かった!何か欲しいものはあるか?」
「欲しいもの?いえ、そんな…」
「素直になってくれとさっきも言っただろう?」
「あ…失礼しました。そうですね、うーん…杏寿郎さんが任務で家をしばらく留守にしている時、お手紙が欲しいです」
「手紙?」
「はい。あの、離れていると貴方の安否が不安で堪らないのです。なので、たまにで良いので手紙を送って欲しいです」




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