-17 愁眉

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甘露寺さんは私に色々な話をしてくれた。
主に杏寿郎さんのことだ。
彼女は彼が柱になるきっかけとなった戦いに同行していたらしく、その勇ましい杏寿郎さんのことを熱心に話してくれた。
自分の呼吸というものも、その時に見つけたらしい。

「煉獄さんには本当に心から感謝しているの。だから名前さんと幸せになって欲しいわ」

彼女は目をきらきらさせて杏寿郎さんについて語っていた。
終始もやもやとした気持ちを悟られまいと、作り笑顔を取り繕った。


日も傾いてきた頃、そろそろ帰ると言い出した甘露寺さんをお見送りに外へ出た時だった。
薄暗い道でゆらゆらと燃えるような人影が見えた。
杏寿郎さんだ。
たしかに彼だと確信すると、勝手に胸がきゅっと何かに締め付けられる様。


「甘露寺じゃないか!どうした」
「煉獄さん!ちょうど近くに来たものだから、寄っちゃった!でも、ごめんなさい、お土産で持ってきたお菓子はみんなで食べてもうないんです…」
「ははは!君は本当に食いしん坊だな!」

杏寿郎さんが甘露寺さんの頭を当たり前のように撫でる。
その光景を見ると、胸を締め付ける力がどんどん強くなる。
見たくない。
そう思うのに目が離せないのだ。


「名前、千寿郎、ただいま」
「「おかえりなさいませ」」

千寿郎君はいつものように笑顔で兄に抱きつく。
私はと言うとにこりと口角を上げるので精一杯だ。

「ねえねえ煉獄さん、名前さんって可愛い奥さんですね」
「ん?そうだろう!銀座に連れて行った時はもっと可愛らしかったぞ!」
「杏寿郎さんっ!」

ぶわっと顔に熱が集中する。
彼から「可愛らしい」と言われることは初めてじゃないのに。
慣れるどころかどんどんその言葉に反応してしまう。


「甘露寺、もう暗くなるから気をつけるんだぞ」
「はいっ!煉獄さんもゆっくり休んでくださいね」
「また俺がいる時にでも遊びに来てくれ!」
「わかりました!それじゃあ…!」

健気に手を振り続ける甘露寺さんを3人で見えなくなるまで見送った。
3人になると、なんだかホッとしてしまった。
これでやっと胸の苦しみからちょっとだけ、解放される。


さて、これから忙しくなる。
本当は明日帰ると手紙を貰っていたが、どうやら早まったようだ。
今日の夕餉はどうしよう?
ご馳走ができないかもしれない。

千寿郎君も同じことを考えているらしく、目をきょろきょろさせている。
慌てて2人で台所へ向かっていると、突然後ろから杏寿郎さんに肩を叩かれた。
振り返れば「君だけおいで」と手を引かれる。
ドキリとして、言葉が出ずにおろおろしていると千寿郎君は「どうぞ姉上、行ってください」と笑顔。
ああ、これは行かなくてはけない。

やっと胸の苦しみから解放されると思ったのに。





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