-15 恋風

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杏寿郎さんに連れられて銀座の煉瓦街に行った夢のような1日から、もう1週間が経ってしまった。
本当にあの日は夢だったのではないだろうかと思うほどに世界が違って見えた。

残りの2日の休暇を杏寿郎さんは千寿郎君との稽古と私との時間に費やして、休暇明けには忙しそうに朝早くから出て行ってしまった。
帰って来たのは一昨日。
それ以外に彼は帰って来ていない。

その間、私の脳内に杏寿郎さんがずっと居座り続けている。
あの日からどうしても彼のことを考えてしまう。
洗濯をしている時、食事を作っている時、掃除をしている時…
帰って来ないと分かっているはずなのに、ついつい期待してしまう。


私はきっと杏寿郎さんに恋をしてしまった。
もちろん妻なのだからとても良い傾向だということは分かっている。

でも、やっぱり杏寿郎さんのことを考えている時に頭の片隅に浮かぶのは故郷のあの人。
もしかしたら今頃私を探してくれているかもしれない。
明日、一緒に帰ろうと言って迎えに来てくれるかもしれない。
その時に私が杏寿郎さんに心を奪われて、あの人への情が完全に消え失せていたら?
あの人はどう思う?

そう考え出してしまうと、どうしたら良いのか分からないのだ。

2人の男に揺れ動く心。
私はなんてだらしのない女なんだろう。
いくら悩んでも答えが見つからず、苦しい。


きっぱりと決めなくてはいけない。
だが、私はあの人を完全に忘れることなど出来ないのだ。
だってあんなにも好きだった。
愛し合っていた人を、簡単に忘れられるはずないのだから。


「姉上、どうしたのですか?もしかして体調が悪いのですか?」
「…いいえ。大丈夫です」
「無理しないでくださいね?」

いけない。
千寿郎君と共にしていた野菜を洗う手がいつのまにか止まっていた。
いつもよりぼんやりしている私を心配して、千寿郎君が不安そうな顔をしている。
申し訳ない、こんなに小さい子に心配してもらうなんて。


杏寿郎さんのことを思うと胸が締め付けられるようだ。
今はそれに気づかないように必死に手先を動かした。


「こんにちは〜」

その時、玄関の方から珍しく若い女性の声がしてハッと2人で顔を見合わせる。
千寿郎君は「蜜璃さんだ!」とぱっと笑顔になった。
どうやら知り合いらしい。
後について行って玄関へ出向くと、とても可愛らしい女の人が立っていた。
服装は驚くことに杏寿郎さんと同じように鬼殺隊の隊服だ。
まさか、こんな自分と同じ歳くらいの女性が。

そしてその相手も私を見てポカンと口を開けている。

「ね、ねえねえ千寿郎くん、この人は…?」
「あ!姉上です」
「…申し遅れました。わたくし煉獄名前と申します」
「へ?」
「炎柱、煉獄杏寿郎の妻です」
「えっ、ええええ!?!」



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