-14 銀座

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普段見れないであろう新鮮な名前の姿をしっかり目に焼き付けておこうと思う。
品書きを見て首を左右に傾げている姿など心こそ可愛らしいなと感じる。

「私、このグラタンにします。噂でおいしいと聞きました」
「では俺はオムレツライスにしよう。以前来た時に弟子が食べていたのが美味そうだった。それとコロッケと、シチューも頼もう」
「コロッケ、シチュー…」

言葉を覚えたての子どものようにつぶやき繰り返す名前に思わず口角が上がる。
女給を呼びつけて注文を終えると、大人しくしていた彼女はまた落ち着きなく辺りを見渡す。

「素敵ですね」
「連れて来て良かった。何より、君がそうして笑っている姿は初めて見た」

名前は俺の言葉にぴくりと反応し、そして何故か真顔に戻ってしまった。

「屋敷にいる際は煉獄家に嫁いだ女として恥じぬ様、意識していたのですが…。すみません、こうして外出するとつい気が緩んでしまいました」

テーブルにちょこんと両手をついて深々と頭を下げる名前を慌てて制止する。

「君は不器用なのだな!」
「不器用、ですか」
「手先のことではないぞ?名前には家でも俺の前でも、どこに居てももっと笑っていて欲しい」
「…」
「君は笑っている顔の方が可愛らしくて良い」
「きょ、」

ほのかに頬を染めた名前が何か言おうとしたが、ちょうど良く注文した食事が運ばれて来てしまった。
彼女も見たこともない料理に視線を奪われている。

「さあ、冷めないうちに食べてしまおう!」
「はいっ」

いつもより弾んだ声が聞こえて安心した。


洋食を初めて食べたらしい名前は終始感動していた。
どうしたらこんな物が作れるのだろうかと食べながら悩んでいたが、残念ながら最後まで分からなかったようだ。
だが口に合ったようで安心だ。
あまりに美味しそうに食べるからコロッケを1つ分けてやると子どものように瞳を輝かせていた。

洋食店を出ると「千寿郎君にも食べさせてあげたかったです」と言う名前と共に土産を買うことにした。
菓子店に入ると咽せ返るような甘い香りに包まれる。
彼女にはとても良い香りらしく、店内を見渡して深呼吸している。

「名前、選んでくれ」
「私がですか?」
「君の方が得意そうだ」

遠慮する名前の背中を押してやるとウィンドウ越しにきらきらと輝く甘い洋菓子を食い入るように見つめる。

「これはどうでしょうか?」
「ああ。キャラメルか。よし、みんなの分を買って帰ろう!そして屋敷に帰ったら茶でも入れて食べよう」
「こ、こんなに高価な物を、いいのですか?」
「もちろんだ!」

ぱああと名前が花開くように笑顔になった。
今日の彼女は良く笑う。





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