母親というもの

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息子が必死に私のお乳を飲んでいる姿をじっと見守る。

んくんく、と独特な音がする。
この子が生きているという実感が湧いて鳥肌が立つ。

夫にそっくりな髪色と瞳。
今は閉じられている瞳が早く見たくて仕方ない。


「……いつまで見ているんですか」

視線を感じて首を曲げて後ろを振り返った。
隊服を着たままの夫がそこには居た。

ずっと私がお乳をあげているところを音も立てずに見ていたのを私は知っている。
彼の気配がしたからだ。
元鬼殺隊である私が人間の気配に気づかない訳がないのだ。


「ははは!バレてしまっていたか!」
「そんなにじろじろ見ないでください。恥ずかしい」
「可愛らしくてついな!」
「どちらかですか?」
「どちらもだ!」

本当にこの人は…。
はあ、と深いため息をついてまた息子へ視線を戻す。
先日生まれたばかりのため、まだふにゃふにゃしていて抱きしめることも戸惑ってしまう。
私はともかく杏寿郎様が抱きしめたら潰れてしまいそうだ。


彼は後ろからようやく目の前に移動して、どかりとその場にあぐらをかく。
任務が終わったばかりなのか微かに血の匂いがする。

「どこか怪我をしました?」
「いや。無傷だ!」
「先に湯浴みした方がよろしいんじゃないですか?さっぱりしますよ」
「早く君とこの子に会いたくて、ついこの部屋へ1番に来てしまった!」

相変わらず強い方だ。
彼は大丈夫だといつも信じているが、やはり帰って来て無傷と聞くと安心する。


「なんだかこの子に君をとられてしまう気がして少し寂しいな」

未だに必死にお乳を飲み続ける我が子の頬をそっと人差し指で撫でながら、彼は目を細めた。

「…そうですね。とうとう私も母親になってしまいました」

私は鬼を殺すだけの人生だったし、これからもずっとそうなのだと思っていた。
結婚も子どもも望んでいなかったし、異性にこれっぽっちも興味はなかった。
そんな私の考えを180度変えたのが目の前にいる男である。


「でも杏寿郎様、私は母親になりましたが貴方の妻でもあり恋人でもあります。それはずっと変わりません」
「…そうだな」
「言うのを忘れていました。おかえりなさい」
「うむ、ただいま!名前!」


いつも通りのおてんとうさまみたいな笑顔。
私はこの笑顔のとりこになってしまったのだ。
もう彼とこの息子なしでは生きていけない。


「とりあえず湯浴みして着替えてください」
「おお!そうだったな。すまない!」

わはは、と風呂場へ向かっていく杏寿郎様。
彼が見えなくなった辺りでやっと息子は乳首から口を離した。

「まったく、貴方のお父上は困った人ですね」

息子は訳もわからないだろうに杏寿郎様にそっくりな笑顔を私に向けてくれた。




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