18. I'll always rush
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今日は朝から雪が降り続いている。
この時期は暗くなるのも早いから近所や贔屓にしてくれている客へ赴くだけですぐ帰るようにしている。
家に帰って火鉢の前で明日の準備や縫い物をして静かに過ごしていると、外からカリカリと扉を引っ掻くような音がした。
まさか鬼?
でもまだ外は一応明るい。
一体なんだろう?
単にネズミだろうか?
そんなことを考えてると「アケテクレ」としわがれた声が聞こえてハッとする。
これは義勇の連れているカラスの声じゃないだろうか?
慌てて玄関の扉を開けるとやはりよぼよぼのカラスが頭に雪を乗せてちょこんと立っていた。
「どうしたのあなた。入って」
そういうと器用に部屋の中に歩いて入って来た。
そして囲炉裏の前でのんびりし出すから困ってしまう。
「ねえ、どうして来たの?義勇は?」
「ギユウ…」
「もしかして、し、死んじゃったの…?」
「シンデナイ!シンデナイ!」
「じゃあどうして?」
「コレ!ミロ!」
カラスはばたばたと羽を乱暴に羽ばたかせて自分の背中を見せてくれた。
よく見るとその背中には人間のように風呂敷包を背負っている。
「ごめんね、雪に埋もれて見えてなかった」
そう言って風呂敷包をカラスの背中から外して中を開けてみる。
濡れないように何十にも布が巻かれた手紙が出てきた。
『苗字名前さんへ
お久しぶりです。以前、偶然お会いした鬼殺隊の胡蝶しのぶと申します。
実は明日にでも私の屋敷である蝶屋敷という場所へ冨岡さんの薬を持って来ていただけますか?
薬といっても、いつもの安定剤ですよ。
冨岡さんのカラスが道案内してくれます。
至急、お願いします。
もし無理なようでしたら理由を書いてカラスに持たせてください。対処します。
突然申し訳ないのですが、よろしくお願いします。
蟲柱 胡蝶しのぶ』
文章を2度、いや3度読み返した。
そういえば今年の夏あたりに義勇が綺麗な女の人と歩いているのを街で見かけて、思わず駆け寄ったのだ。
仕事仲間だと聞いて安心して良いのか分からなかった。
胡蝶しのぶとはその人だ。
なぜその人の屋敷に?
そしてなぜ安定剤のことを知っているの?
義勇が胡蝶しのぶという人に教えたんだろうが、なぜ?
でも文脈から予想するに義勇は彼女の屋敷にいるんだ。
「カラスさん、ここから蝶屋敷までは歩いてどのくらい?」
「アルイテイケナイ!レッシャ!」
「れっしゃ?あ、列車!機関車ね」
戸棚からもしものために隠してあるお金を取り出して巾着に詰め込む。
「今から向かったら暗くなる?」
「ナル!」
「じゃあ、明日か」
もどかしい。
鬼さえいなければ、今からすぐに駆け出して行けるのに。