4.赤口

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杏寿郎さんとの再会は予想以上に早かった。
次の週の土曜日の夜、1人で彼は現れたのだ。
まさか思い出したのかしら。と、思ったけれど違った。

「占いに興味を持った!どういう仕組みか教えて欲しい!」
「そんなお客さんは初めてです」

本当はこの占いブースでやっている以上、お金を取らなければならないが相手が相手なのであえて何も言わずに招き入れた。

「君の魔術か!」
「魔術なんてものではありせんよ。私の出来る占いは手相、九星気学、六星占術です。特に手相は誰でも簡単にマスターできます」
「ん?よく分からないな」
「タロット占いや水晶占いはインスピレーションや霊術なんて言ったオカルトチックなものでパワーがないと出来ないみたいです。私の出来る占いは全て統計学から成り立つんですよ」
「統計学?」
「その名の通りです。例えば20年間12月4日の天気を記録して、20年中15年雨だったら雨雲レーダーなんて見なくてもある程度予想はできますよね?」
「む、なるほど」
「だからそういう占いって当たりやすいんです。それにこれを説明したらみんな納得してくれるから、評判も変に悪くなったりもしませんし」
「すごいな!面白い!!」


わはは、と笑う仕草は昔と変わらず豪快だ。
あの頃の自分は彼が笑うと口元を隠してほほほ、と女性らしく笑っていたけれど今は違う。
ある程度、あははと声を出して笑うようになった。
口元を隠す癖は残ったまま。


「君の笑顔は綺麗だな」
「何を突然言い出すんですか」
「いや、そう思っただけだ」
「杏寿郎さんは天然のタラシさんなんですか?」
「なんだそれは」

勢い余って名前を呼んでしまった。
しかし彼は気づかなかったようで口を尖らせて私を睨みつけるだけ。
こんな顔の杏寿郎さんを前世では見たことがなかったから自然と笑みが溢れてしまう。


「君の占いが黒魔術や怪しい技ではなく、単に統計学なのは理解した。しかし、なぜ俺のことを知っていたんだ?」
「…」

あの時はちょっとしたいたずらをしてやろうと思っただけで、まさかこんな展開になるとは思っていなかった。
さて、なんと答えるのがベストなのだろうか。

「…たまたまです。貴方と私の間にたまたま、そう言う不思議な現象が起きたんですきっと」
「他の人のもたまたま分かる事があるのか?」
「他の人のは分かったことは未だかつてありません。貴方だけです。私と貴方はそういう運の巡り合わせなのです」

一気に怪しくなってしまった私の言動に、彼はきゅっと眉間に皺を寄せた。
せっかく築いた信頼度が落ちてしまう。
しかし他にする言い訳も思いつかなかった。


「今日ここに来たのは君と俺が本当に昨日初めて会ったのかを確かめるためだ。あの日からずっと君のことを考えてみた」
「…」
「…何か、懐かしい気持ちになるんだ」
「懐かしい、ですか」
「考えれば考えるほど、君とはどこかで会ったことがあるような気持ちになる。気になって仕方ない」





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