10話「夜食のおにぎり」

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腹が減った気がする。
冨岡はふと考えた。

今目の前にある呼び鈴を鳴らしたら名前が来るのだろうか。
宇髄と夜食はおにぎりを作ると話していなかったか。


チリン、と控えめに音が鳴る。
本当にこれで来るのだろうか。
まあ来なかったのならそれでいい。

少しソワソワした気持ちを押さえつけながら冨岡は部屋の入り口を凝視した。
しばらくすると廊下を歩く音が近づいてくる。

「失礼します、名前です。お呼びでしょうか」

名前は部屋には入らず、ふすまを隔てて控えめな声で話しかけた。

「………」
「あの…冨岡さん?」
「…夜食を」
「え?」
「夜食を頼む」
「は、はい!」

名前はあわてて来た時よりも騒がしく離れて行った。
数分してまたパタパタと足音が近づいてくる。

「失礼します」

今度はふすまを少々乱暴に開いて名前が現れた。

「おにぎり、2つでたりますか?」
「ああ。かまわない」
「よかった」

慌てて作ったのか、彼女の腕にご飯粒が付いていた。
近づいて来た時にそっと取ってやると名前は恥ずかしそうに笑いながら礼を言った。

「すみません、まさか冨岡さんが夜食を頼むとは思ってなくてびっくりしちゃって。数も聞かずに厨房まで行ってしまって」

夕食時はおかわりを断った冨岡が、まさか夜食を所望するなど予想していなかったようだ。

「中身は鮭と、こっちは梅です」
「ああ…」
「鮭と梅、大丈夫ですか?苦手とか…」
「好きだ」
「、よ、よかったです」

顔が整っている冨岡に真正面から「好きだ」と言われて平気な女性はなかなかいないだろう。
名前は顔が赤くなる。
そんな彼女の気も知らず、冨岡は鮭のおにぎりにかぶりついた。

「うまい」
「本当ですか?ありがとうございます!」

ぱぁぁと名前が笑顔になる。
まるで太陽のようだな、と冨岡は思う。

「今日は泊まり込みなのか」
「はい。鬼狩り様がいらっしゃる時は私が基本担当するんです。24時間ご対応できるように泊まり込みなんです」
「そうか。すまなかった。夜に呼び出して」
「いいえ。まだ仕事も残ってますし」
「………無理をするな。休め」

名前はきょとんとして冨岡の言葉を反芻する。
そして心配してもらったことに気づき、また顔を赤くして喜んだのだった。


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