8話「初めての嫉妬」

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「まじでおまえなぁー……」
「………すまない」
「はぁ…」

部屋に案内されたあと、そのまま布団で眠ってしまった冨岡はもちろん夕餉の時間に起きなかった。
それを起こしてくれたのはこの事を予期していた宇髄だった。


藤の湯館では個室ではなく大広間で泊まり客みんなが集まり食事をするシステムらしい。
もちろん鬼殺隊は特別な料理が振る舞われるし、一般客とは屏風で隔たりができている。

すでに広間にはたくさんの人がいた。
平日ということもあってそこまで混んではいないようだ。
女中に導かれ、奥にある特別な席へ。
冨岡が寝坊したにもかかわらず、料理は出来立てのようだ。

どこかで確かに名前の声が聞こえる。
一番若いからか、他の女中よりも耳に入ってくる。
あとで自分の席にも来るかもしれない、と淡い期待を抱きつつ、宇髄の前の席へついた。

2人とも腹が減っていたため席に着くとすぐに食事を始めた。
家庭料理風ではあるが、やはり他で食べる料理とは違う。
こんなに良いものを食べて良いのだろうかと冨岡はいつも考えてしまう。

そんな冨岡とは反対に宇髄は既に白米を食べ終えていた。

「おかわり、いかがですか?」

そう言って良いタイミングで現れたのは名前だった。
見たこともないような、とても可愛らしい愛想の良い笑顔を宇髄に向けていた。

宇髄は「気がきくな!」と大きな声を出して茶碗を彼女へ渡す。
名前はキラキラした笑顔のまま宇髄と話し始めた。

「ご飯、たりますか?深夜にお腹が空いてしまったら呼んでください。こっそりおにぎりでも持っていきますから」
「良い女だな。あんた名前なんだっけ?」
「名前と申します」
「へえ。名前ね。派手ではねぇが可愛い名前じゃねえか」
「ありがとうございます」

ふふふ、と名前が笑う度、冨岡はとても不快な気持ちになった。

彼女はこんなふうに笑うこともあるのか。
そんなに他人に対して愛想を良くする必要があるのか。
なぜ未だに自分に話しかけて来ない。
他人のふりか。


今まであまり感じたことのない感情に冨岡は戸惑う。
しかしその気持ちは収まらない。
宇髄が憎たらしくなってくる。

「冨岡さんはご飯、おかわりいかがですか?」
「!」

宇髄との話がひと段落したのか、名前はあの笑顔のまま冨岡の方を振り返った。


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