7話「癒しの宿」
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泊まるように促された宿の名前。
「藤の湯館」
その名前は明らかに聞いたことがあった。
彼女の、名前の働いている宿ではないか。
そんな冨岡の気持ちも知らずに宇髄は早速入り口で何やら叫んでいる。
「ここ、温泉が沸いてるらしいぜ!最高だな!地味な見かけによらず!」
温泉、なるほど、だから「藤の湯」なのか。
と1人冨岡はうなずく。
ぼんやりしている冨岡の首根っこを引きずるようにして宇髄は宿へ入った。
「「いらっしゃいませ」」
先頭にはもちろん女将。
そしてその後ろにこの宿の従業員であろう女性たちが数人並んで頭を深く下げていた。
従業員は皆、年配である。
その中で一際目立つ若々しい女。
名前だった。
「!」
頭を上げた名前は冨岡を見て目をまん丸にして驚いている。
口にも表情にも出さないが冨岡もまた驚き、その場で動けなくなった。
女将が直々に宇髄に案内をしている。
冨岡はその後ろで呆然と立ち尽くしていた。
「では鬼狩り様は特別棟になります。各個室、露天風呂付きでございます」
「へえ!そりゃいいな!」
「部屋には呼び鈴がございます。御用がございましたらいつでもお呼びください」
女将に連れられて別棟の個室に案内される。
宇髄とは隣同士だった。
「ではお二人の担当をさせていただきます者を紹介します」
「名前と申します。よろしくお願い致します」
後ろから恐る恐る現れたのが名前だったため、冨岡はさらに驚き目を見開いた。
「どうしたよ冨岡。変に緊張してねえか?」
「してない」
「……あっそ」
少し食い気味に否定した冨岡に宇髄はげんなりした様子だった。
「じゃあ俺は部屋に戻る。夕餉が何時からかちゃんと聞いてたんだろうな?」
「……」
「聞いてなかったのかよ!今から2時間後だとよ」
じゃあな、と言って宇髄は部屋に入ってしまった。
冨岡は自分に与えられた部屋に入ってみる。
勿体無いくらい広くて綺麗だった。
すでに布団は敷かれ、庭には露天風呂。
一般客として泊まったらいくらするのだろうか。
名前はどのくらい給料を貰えているのか。
一人暮らしで不自由ない程度には貰えていそうだ。
などと考えつつ、冨岡はさっそく布団に寝転んだ。