-19 約束事

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2人で並んで歩く。
前に送ってもらった時は他にも先生たちがいたからあんまり意識しなくて済んだのに。

今、隣を歩く存在が私にとってどれだけ大きいか。


「煉獄先生、いつもどうやって通勤してるんですか?」
「歩きだ」
「じゃあこれから、私を送ったら歩いて家まで帰るんですか?」
「そうだ!」

私の記憶が正しければ、アパートから彼の家まで歩くと30分以上かかる。
申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

「キメツ学園の校庭から駅までの抜け道があるんだ。そこを通れば10分で着く」
「そうなんですか?」

私の家からキメツ学園までは8分ほどだろうか。
なら少しは近いのかな。


「気にするな!俺が好きでやってることだ」
「ありがとうございます…」

足元に視線をやる。
去年買った安物のサンダルに下はスウェット。
上はアウトレットで買った変なデザインのパーカー。
全然可愛くない…。


「苗字さん」
「はい、」

突然呼ばれてハッと立ち止まる。
いつのまにか少し前を煉獄先生は歩いていた。
慌てて駆け寄る。

「なんですか?」
「もし良かったら今度一緒に食事に行かないか?」
「えっ、食事?」
「お互いの仕事終わりに、どうだ?」


全く予期していなかったお誘いに一瞬頭が真っ白になって思考が停止してしまった。

「あ、あの、私で良いんですか?」
「ああ!もちろんだ!」
「あの、では、よろしくお願いします」


あれ、今の私の回答はあってたんだろうか?
なんだかお付き合いをする時の会話のようだったような…?

でももう遅い。
言葉は撤回できない。


「いつがいい?」
「私はいつでも!仕事は7時には終わらせます!」
「じゃあ…再来週の金曜はどうだ?」
「もちろん大丈夫です!」
「元気だな」

ははは、と笑う煉獄先生。
おかしかっただろうか?
顔が熱い。


「す、すみません…。
あまり異性の方にこうして誘われる機会がないので」
「それは嬉しいな。場所は俺のおすすめの居酒屋ではどうだ?もちろん酒は飲んでも飲まなくても良い」
「私はどこでも!お酒は…飲みたいです!」
「分かった。じゃあ俺も飲もう」


ん?
嬉しいとは?

でも今更「さっきの言葉の意味は?」なんて聞ける訳がなく…。


気がつけばアパートに到着してしまった。
もっと一緒にいたい。
なのに煉獄先生は「じゃあ、また連絡する。おやすみ」と言っていとも簡単に立ち去ってしまった。


未だに心臓がバクバクうるさい。




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