-18 価値基準
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右手にしっかりと握りしめていたスマホで改て先ほど見つけた格安サイトを検索する。
お気に入りにしていたのですぐに出た。
その画面を煉獄先生に見せる。
「ここだと、同じ機種で5万でした。一応怪しくないか色々調べたんですけど、一年保障もあるしサポートもしっかりしてるし…このサイト自体有名だから煉獄先生も知ってると思うんですけど…」
「うむ」
「うちから買うより安いです、だから、それを伝えたくて。発注はキャンセルできますから!」
「…」
煉獄先生は驚いたように目を少し大きく開いた。
「だが、君の売り上げは…」
「そんなの良いんです!営業は、お客様のお困り事を解決するのが仕事ですから…!」
それに後から煉獄先生がこのサイトを見て、見つけてしまった時に「苗字のとこより安いな…残念」って思うかなぁと不安になった。
結局は自分が嫌われたくないからだ。
「ははは、君みたいな営業さんには会ったことがないな!」
「はい…?」
「うん、決めた!君から買おう!」
「えっ?!」
今度は私が驚いて目を見開いた。
煉獄先生が力強く私の肩を叩いた。
「正直に言ってくれてありがとう。君のその人を想う優しさに感動した!俺は顔の見えないネットの誰かよりも、苗字さん、君から購入したいと思う!」
「れ、煉獄先生…」
「さっきのサイトは見なかったことにしよう、お互いに。そして今後も見ない!それでいいだろう?」
「い、良いんですか?」
「お客様がそれが良いと言ってるんだぞ?」
「そ、そうですよね!」
嬉しくて嬉しくて涙が出そうになる。
この仕事をしてきて良かったと、改めて感じた。
目の前の煉獄先生はいつもよりも目一杯の笑顔で私の頭を乱暴に撫でてくれた。
「すまん、つい、弟にする勢いでしてしまった…」
「いえ、全然、嫌じゃないです…」
「…髪が乱れてしまったな」
そう言って、今度は優しく私の頭を撫でる。
猫や犬ってこういう気持ちなんだ…
なんて思っている場合じゃない!!
煉獄先生が、私に触れている。
しかもこんなに優しく。
冷静になって考えてみると、今度は心臓がバクバクとうるさくなってきた。
あんなに寒かったのに、暑い…!
「あ、あの、では、私これで…失礼します……」
「送ろう!」
「ええっ!?」
煉獄先生は私を置いてアパートの方向へ歩き出した。