下「祝福」
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冨岡さんはしゅんとした顔をして俯いた。
「名前は、俺のことが好きじゃなかったのか」
「…えっと」
「俺は好きだった。おまえのところの社長にはからってもらったのも俺が相談したからだ」
「うそ…」
今度はまた別の涙が溢れてくる。
しらなかった、ずっと。
私はこの約2年、そんなことも知らずに生きてきたのか。
「いつも楽しそうに仕事をしているおまえを見ていた。心から仕事を楽しんでいただろう」
「…うん」
「だから好きだった。おまえが眩しかった。俺は営業職が嫌いだから…」
「…嫌いなのに営業してるんだね」
「辞める勇気もない」
ふふ、と笑いつつも私は泣き止まなかった。
「私も、好きだよ。ずっと」
「!」
「あなたの全部が好き。大好き」
「…よかった」
こんな時、「俺も大好きだよ」と言えないのが彼である事をしっかり承知済みだ。
そんな不器用なところも可愛くて好きだ。
再度、彼に優しく抱きしめられた。
ちゃんとお腹を気遣った体勢なのが嬉しい。
「順番が逆になってしまったのは申し訳ない。
俺と結婚してくれないか」
「もちろん、です」
ありがとう、と彼は私に触れるだけのキスをした。
ベッド以外でキスされる事は珍しいのでちょっと恥ずかしい。
「月曜日、会社に行ったら社長に報告しないと」
「……殺されないか不安だ」
「大丈夫だよきっと」
月曜日、社長の宇髄さんに報告したらとんでもなく吠えていた。
顔出しに来た冨岡さんは2時間くらい社長室から出てこなかったが、その日の夜にまた2人で飲みに行っていたから大丈夫だったのだろう。
私は寿退社することにした。
仕事は好きだったが、寿退社するのが夢だったのだ。
「名前、絶対に幸せにする」
「ありがとう、冨岡さん」
「おまえも冨岡になっただろう。何回言えばわかる」
「あ、そうか!」
「名前で呼べと…」
「と、義勇さん」
満足したように微笑んだ義勇さんを私は久しぶりに見た気がする。
そんな結婚式だった。