その後「家族」
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「いいな〜。美々子のパパって良い男よね〜」
小学校のおませな友達からよく言われる。
私のパパは「良い男」らしい。
私は生まれてから10年間、ずーっと一緒にいるからあんまりよく分からない。
まあその友達も意味をわかって言っているのかは疑問だけど。
うちのパパは凄く静か。
よく言えばクールなんだと思う。
小さい時からワイワイと賑やかに遊んだことがない。
別にそれでもいいんだけど。
ママはどう思っているんだろう、ってよく考える。
ママの友達の男の人でもっといい人がたくさんいるのになんでパパなんだろう。
だから聞いてみることにした。
「なんでママはパパと結婚したの?」
「えっ」
ママは飲んでいた紅茶を口から溢して動揺していた。
「パパが帰ってくる前に教えてよ〜」
「…普通に、好き同士だったからだよ」
「どのくらい付き合ってたの?」
「……んん」
なんだかママは聞かれたくないことを聞かれたみたい。
そんなに娘の私に話すのが恥ずかしいのかな。
それとも…なにか理由があるの?
「2年くらいかな?」
「どっちから告白したの?付き合ってーって」
「うーーんん、昔すぎて忘れちゃったかなあ」
「嘘だ〜」
大学生時代の話とか普通にしてるくせに。
怪しい。とても怪しい!
「ママは本当にパパが好きなの?」
「好きに決まってるじゃない」
その返答は早かったし迷いがなかった。
じゃあなんでそんなに気まずそうなんだろう。
「ただいま」
「あ、パパだ、おかえり」
「美々子、宿題はしたのか」
「もうしたよ〜」
「さすがだな」
そう言ってパパは私の頭を優しく撫でてくれた。
そろそろ恥ずかしいからやめて欲しい。
「今ご飯用意するね!」
ママはキッチンへ行ってしまった。
今がチャンスだ。
「パパ」
「なんだ」
「なんでママと付き合ったの?どういう出会い?」
「…………」
「パパ聞いてるの?」
「聞いてる」
「どこでママと出会ったの?」
「俺が営業している時、取引先の会社だ」
「とりひきさきの、会社」
「そうだ」
難しいことはよくわからないけど、パパは嘘をつかないと思うから信じよう。
「じゃあどっちから告白したの?」
「………俺か?」
「なんで疑問形?」
「……いや」
どうも夫婦揃って歯切れが悪い。
「どういうタイミングで結婚したの?」
「……美々子ができたからだ」
「…結婚してから私が生まれたんじゃないの?」
「……そうだ」
知ってる。
そういうのデキ婚って言うんでしょ。
それって、私ができちゃったから結婚したってこと?
じゃあ私ができなかったら?
「順番はまあ…間違ってしまったかもしれない。
でも俺はずっと名前が好きだったしちゃんと愛していた。それなら順番なんて関係ないだろう。
大切なのは相手を想う気持ちだ」
と、俺は思う。
とパパは付け加えて、そそくさとスーツから部屋着に着替えに行ってしまった。
タイミングよく今度はママがキッチンから現れた。
「美々子、パパがご飯食べ終わる前にお風呂入っちゃったら?パパお風呂長いから。先に入ったほうがいいよ」
「ママ…」
「なに?」
「パパって良い男だったんだね」
「ええ、なにそれ」
ママは意外にも恥ずかしそうに笑っていた。
あの、おませな友達が言っていたことはあながち間違いではないかもしれない。
end