中「告白」
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「どうした名前」
「…うーん、なんでもないですよ?」
「…なんで敬語なんだ」
翌日、予定通りに冨岡さんがやってきた。
明日は日曜日だからそのまま泊まるつもりだろう。
でも今日、妊娠を告白したら彼は帰ってしまうかもしれない。
ソファーに座って彼を隣に座るように促した。
「話があるの」
「なんだ、改まって」
「……」
怖い。
手が自分の意思に反してブルブル震えた。
それに気づいた彼はそっと私の手を握った。
その優しさが、嬉しくもあり、つらかった。
思わず泣き出す私に彼はギョッとした。
「どうした名前」
さっきと全く同じ言葉で笑ってしまう。
本当に口下手なんだ。
「冨岡さん、私、妊娠しちゃった…」
「!」
今まで見たことがないくらい目を大きく開けた彼は、凄い勢いで私を抱きしめた。
でもその腕の力はとても優しくて。
「ありがとう」
「あ、ありがとうって、」
「……産んでくれないのか」
「…え」
「何か問題があるのか。……そうか、まだ結婚はまだだったな。ご両親が厳しいのか。俺がちゃんと話に行くから安心しろ。それとも…」
「まって!!」
まって。
彼はなにを言っているのか。
「私たち、付き合ってすらないんじゃ」
「……」
「冨岡さん?」
「俺はあの日から、付き合っているつもりだった」
「あの日…?」
「2人で食事をしただろう。はじめて」
記憶はたしかに曖昧だ。
だが、告白をした覚えはないしされた覚えもない。
もはや涙も出ない。
ぽかんと彼を見つめて、恐る恐る口を開く。
「私、告白した?」
「してない」
「冨岡さん、告白した?」
「してない」
いや、してないんかい!!!
「寝ただろ…」
「え?」
「あの日、セックスしただろう」
「…うん」
「あれはもう、付き合ったことにならないのか」
「な、ならないよ…」
まさか、そんな事があるだろうか。
性行為をしたら恋人。なんて。
そんな発想、今まで色恋沙汰がなかった人がするかしないか…。
「冨岡さん、今まで誰かと付き合った事は?」
「ない」
「…なるほど」
そうか。
そうだったのか。
冨岡さんはとんでもない人だ。
いつも私を驚かせる。