-17 駆け抜けてコンビニ
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本来ならもうメーカーに発注したものは返品できない。
それに周りにも売ったことを言ってしまった。
それでも私はどうしても好きな人にそのことを黙ってはいられない。
先ほど話したばかりの煉獄先生へ再度電話をかけるがなかなか出ない。
時計を見ると18時45分。
ちょうど今から帰るのかもしれない。
2回ほど電話したが出ないし折り返しもない。
どうしよう、伝えないと。
その気持ちだけがぐるぐるして焦ってしまう。
けれど電話に彼が出ることはない。
仕方なく、折り返しを待つことにした。
とりあえずこっそりメーカーには先程の発注をストップしてもらった。
自分のデスクは戻って溜まっていた事務仕事に集中する。
それからも煉獄先生から電話がかかって来ることはなかった。
彼からの折り返しの電話が来たのは20時を過ぎた頃だった。
既に自分は自宅にいて、部屋着でくつろいでいる時だったから驚いてベッドの上で正座になる。
「もしもし、煉獄だが。すまん、電話をもらっていたな」
「いえいえ!こちらこそ忙しい時にすみません…」
「さっきまで宇髄たちとラーメンを食べに行ってて気づかなかったんだ。申し訳ない。それで、要件は?」
彼の話す声の後ろで車の通り過ぎる音が聞こえる。
今外のようだ。
「あの、今どちらですか?」
「さっき学校で解散して、今はあのコンビニに寄るところだ。前に君と会った」
「待っててください!今行くので!」
「な、おい!」
彼の驚く声を全て聞かないうちに電話を切って、慌てて外へ飛び出した。
寒いのにサンダルにしてしまった。
でも靴下を履いている余裕もなかったから仕方ない。
必死に走ったけれどもうそんなに若くないせいか、とても肺が苦しいし喉が痛い。
コンビニの外で缶コーヒーを片手にキョロキョロしている煉獄先生の姿が見えた。
「先生!」
「ん?!苗字さん、先生なんて呼ぶから生徒かと思ってしまった」
「あはは…」
2人でわははと笑って、でもすぐに煉獄先生は怒ったような顔になってしまった。
「またこんな時間に1人で歩いて来たのか?」
「走ってきました」
「そこは問題じゃない。危険だろう」
「まだ21時にもなってません…!」
「むぅ…」
彼が困ったような顔をしてしまった。
申し訳ない。
はっ!
それよりも伝えたいことがあったのだ。