3時間目:先生とお昼ごはん

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「冨岡先生っていっつもぼっち飯らしいよ〜」

そんな情報を友達から教えてもらった。
場所も基本的に決まっているらしい。

私はさっそくその日の昼休み、校舎の片隅の階段へ向かった。
そこには大きい体を縮こまらせて座る冨岡先生の後ろ姿。
辺りは静まり返っていて、驚かせるつもりで足音を立てないように近づいた。

「…何のようだ苗字」
「ええ!冨岡先生すごい!なんでわかったんですか?」
「足音……」
「足音!?」

冨岡先生は絶対音感の持ち主に違いない。
振り返ることもなく、そのままパンにかじりつく。
昔、おつかいで行った商店街のお店に売っていた菓子パンだった。

「そのパン知ってます」
「そうか」
「私もここで食べちゃだめですか?」
「好きにしろ」
「ありがとうございます」

冨岡先生は少し壁際によって、私の座るスペースを作ってくれた。
本当は先生の座る一段上に座ろうと思ったのだけど、わざわざ空けてくれたのだからそちらに移動した。
いつもより距離が近い。
気がつけばまた2人きりの空間にドキドキする。


「なんで一人で食べてるんですか?」
「食べながらだと話せない」
「それは一人でこんなところで食べる理由になってなくないですか?」
「…ここに来る不埒な生徒を注意するためだ」
「不埒?………ああ」

今先生がパンをむさぼっているこの階段は、この学校で生徒たちのデートスポットで有名なことを思い出した。
昼休みや放課後、誰も来ないこの階段でイチャイチャするカップルが多い。
中高一貫なこともあり、高学年のそういう行為は問題になっていた。

「なるほど〜。たしかに私も中学生の頃にここに来てました。まだ冨岡先生が赴任する前」
「……彼氏がいたのか」
「今はいないです。それにその頃も既に先客の高校生カップルがいて、大人しく教室に戻りました」
「…そうか。その男はこの高校にいるのか」
「いますよ。そのままエスカレーター式に高校生になってますから」
「何組の誰だ」
「ええ?な、なんで…。教えなきゃダメですか?」
「気になる」
「気になる?うーん、内緒ですよ、黒歴史なんだから」

そっと先生の耳元に近づき、他の誰にも聞こえないと分かっていながらも小声で囁いた。
付き合って1年で別れた元彼の名前を久しぶりに口にした。
今自分が好きな人に教えるのだから、妙に緊張。


「…あいつか」
「そうです。ね、黒歴史でしょ?あんな調子乗ったポンコツ男」
「そうだな」
「否定しないんですか先生」


牛乳をちゅるる、と飲み干し、先生は簡単に昼食を終えてしまった。
先生はそれでも私が食べ終わるまでずっと隣でいてくれた。



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