キスをテーマにしたショートストーリー集です。

一つ140字〜200字で構成され(筆が乗ればその先も)、短編や長編に採用されたものや今後使う予定のものもごちゃ混ぜになっています。百個のキスシチュを書くことを目標に、管理人のキスシチュへの飽くなき萌え語りを交えて記載しています。




▼ No.14『kill me if you kiss me』

2014/10/25 13:36


とある夢サイトの管理人emeさんより、私をイメージしたタイトルっていうのを作ってもらいました。「キスシチュ萌えwwwww」って所構わず言っているせいでしょうか。頂いたタイトル名はキスにちなんだもので、『kill me if you kiss me』というものでした。

スタイリッシュでカッコ良くて、このタイトルを頂いた時、壁ドンする男女・睨み合う女・取り出されたナイフがすぐさま頭に浮かびました。その場でそのタイトルからイメージした物語を書き上げて、お返事としてお送りさせて貰ったのですが、キスシチュ話なのでこちらに改めて投下させて貰いますね。








知らなかったの、私と貴方が血の繋がった兄弟だっただなんてーー。


追い詰められた部屋の角。彼は私の手を力強く掴みながら、真剣な眼をこちらに向けている。強い眼差しに思わず目を逸らすけれど、その瞳から逃げることが出来なかった。なぜ?ーーと、彼の瞳が問いかける。

数日前まで手を取り合って笑いあっていた女が急にこんな態度をすれば誰だって不信に思うだろう。だけど、私はその理由を言うことが出来なかった。だって、あなたには将来がある、夢がある、未来がある。その全てを私が奪うことなんて出来ない。


「悪いけど、飽きたの。あなたに」


唾を飲み込み、出来るだけ冷たい声色になるようお腹の底から声を出す。その言葉に彼は一瞬目を見開くけれど、すぐにいつもの冷静な顔に戻って私の手首をさらに強く掴み上げる。

普段は冷静沈着なあなたが時折見せる直情的なところ、好きだった。手首に感じる痛みさえ愛おしい。ふふ、今になって色んなことを思い出しちゃうのはなぜかしら。

私は掴まれていないもう一方の手で、懐から隠しナイフを取り出すと、ナイフの刃を彼の顔に向けた。眼光が鋭くなった彼の瞳孔に、自分の姿が映っているのが嬉しかった。


「kill me if you kiss me」


そう言うと私はナイフを反転させて、自分の喉元に刃を突き付けた。あなたの息を飲む音が、子守唄のように心地良かった。




終わり







悲恋?バッドエンド?な感じですが、壁ドンシチュを入れ込めて満足です。
emeさん、この度は素敵なタイトルを贈って下さりありがとうございましたーー!!!
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▼ No.13『触れられない距離』

2014/09/23 11:44

唐突に毒を持つゆえに人と触れられない夢主ネタが降ってきて、二時間ばかりでがさがさと書き上げた話です。幽白で好きな女キャラは躯さんと、雷禅の想い人さんですが、この雷禅の想い人さんの設定が少し含まれています。


悲恋・シリアス・触れられない距離・片思い・学園もの・放課後・図書館・文学少女・文学少年・純情・赤面………etc


自分の趣味を詰め込みました!!!








好きな人に好きと言えて、好きな人と触れ合える。それはなんて幸せな時間なのだろうーー。


壁に染み込んだ雨水が腐敗して異臭を放つ薄暗い建物の中を、私は案内の男の人の後に続いて歩いていた。ここは皮膚という皮膚に醜い浮腫が広がりしまいには内臓まで腫れあがり死んでゆくという、今だ治療法が見つからない奇病に侵された人が隔離政策という名目で押し込まれている建物で、建物全体に広がる喉をえづくような死の香りに、もがいても出られない溶かしたアスファルトで出来た黒い沼に取り込まれてゆくようだった。


「みんな……やっと来てくれたぞ……」


その言葉に、皮膚という皮膚のただれた包帯だらけの人たちが、一斉に私の方に目を向ける。その瞳に光は一切なく、濁った目からは、家畜小屋のようなこの建物に押し込まれたまま腐ってゆく身体をただ感じ続けるだけの地獄の日々に心底疲れ切っていることが、読み取れた。


「大丈夫……もう、大丈夫よ」


そう言って私は一人の男の前に跪き、取り出したナイフで自分の手首を躊躇いなく切った。切り口から血がぷくりと浮かんで、手首を伝って垂れてゆく。その血を器で掬い取り持ってきた水で薄めると、私はそれを差し出した。男は一瞬躊躇をしていたけれど、案内人の人から話を聞いているのだろう、その器を手に取ると一気にそれを飲み干した。


「ぐっ……はぁ………」


男の手からカランと落ちた器が地面で跳ねた後、静かになる。床の上で転がり苦しむ男の様子を、包帯だらけのいくつもの瞳がじっと見ている。その間誰も言葉を発することはなく、奇妙な静寂だけがそこにはあった。数分後、身体を丸めて呻いていた男から、腐った浮腫だらけの皮膚がボロボロと落ちてゆく。私は安堵の息を吐いた。男は勝ったのだ、私の毒にーー。

それから十分後、皮膚という皮膚が剥がれ落ちて、全ての苦しみから解放された男は、「ああ……神よ……」と言いながら涙ながらに私の手を握っていた。新しく包帯を巻いた左手がズキズキと痛んだ。けれど、救いを求めるいくつもの瞳が私をじっと見ている。泣き言なんか言っていられない。


「大丈夫。みんな、私が救ってあげる……」


そう言って私は、ナイフを持った右手をかざしたのだった。







私は、食脱医師の末裔だった。平安の時代から続く私の一族は、毒を喰らうことにより自分の体内に薬となる毒を作りあげていた。毒を持って毒を制すーー。まさにその言葉の通り、私の体に生まれながらに巣食う毒は、時に人々の救いとなった。血も、涙も、唾液も、性液も、私の体液の何もかもが毒に侵されていたけれど、適切な濃度のそれを与えれば、それは時として薬となり、毒に苦しめられている人々の最後の救いとなっていた。

地獄のような苦しみに苛まれる人々の差し出した救いの手を、どうして振り払うことが出来ようか。例え、この身を幾度となく切り裂こうと、母も祖母も曽祖母もしてきた私たちの一族にしかできないこの救済を、私はこの先もずっと止めることはないだろう。だけどーー。


カタンと小さな音がして、穏やかな光の差し込む窓辺で静かに本を読んでいた彼がそっと顔を上げた。グラウンドから運動部の走り込みの掛け声が聞こえてくる。


「本の、返却ですか?」


耳によく馴染む落ち着いた声が、私に問いかける。胸に抱えていた本をぎゅっと握り、「ええ……」と言葉を返すと、彼の日に透ける柔らかな髪がふわりと揺れた。指先の整った私の手より少し大きな手が、図書カードに文字を書き込んでゆく。伏したまつ毛が、頬に影を落としていた。


「あと、これの貸し出しもお願いします」
「あ……はい……って、これ……オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』だよね。オスカー、好きなの?」
「あ、はい……『木曜日に憂鬱』も面白かったので、他のも……と思って」
「僕もね、この間これを読んだんだけど、人間の心理描写が面白くて一気に読んじゃったんだよ」


はい、知っています。読書カードに貴方の名前が書いてあったのでこの本を選んだんです。そんなことを口にする勇気は出来なくて。嬉しそうに本の話をする彼に、口下手な私はただ笑い返すことしか出来なかった。でも、彼の話を聞きながら、彼の見ている前でカウンター越しに図書カードに名前を書き込んでゆくこの時間は何事にも代え難い私の大切な時間に違いなく、コチコチ……と創業時代からこの図書館に掛けられているレトロな古時計が奏でる規則正しい音が、耳に心地よかった。心穏やかでいられるかけがえのない時間。このまま時間が止まってしまったらいいのにーーと私はいつも思っていた。


「あ、カードを……」そう言って、ボールペンをカウンターに置き顔を上げた瞬間、穏やかな瞳をした彼と目があった。心臓がドクンと高鳴り、瞬時に顔が熱くなる。震える手でカードを差し出すと、同じように少し顔を赤くしながら彼が手を差し出した。カードを手渡す瞬間に、彼の少し冷たい指先がわずかに私の指に当たる。思わず手を引き込むけれど、心臓は喉から出そうなほど煩く鳴っていて、恥ずかしくて顔を上げることができなかった。


「あの……僕、実はーー」


そう言って、彼が手を伸ばした。私の左手に。そう、包帯の巻いてある私の左手にーー。私は、思わず、反射的といって良いほどの速さで手を引いてしまった。包帯で厳重に巻いてあるといっても、私の傷口は危険で、もし彼の指に傷でもあってそこから私の血が入り込んでしまったら、健康な彼はたちどころに私の毒に侵されてしまうだろう。

手を引いて少し経ってから、私は彼が傷ついた顔をしているのに気がついた。ああ、違うの……。そう言いたくても、言葉が喉から出てこなかった。「ごめんね、こっちの手、怪我してるの……」そう言って私は図書室から、逃げるようにして出て行った。


好きな人に好きと言えて、好きな人と触れ合える。それはなんて幸せな時間なのだろうーー。本当は彼の手を取って、抱きしめて、そのまま唇を重ねたかった。だけど、私にはその幸福は訪れない。私はそれを許されていない。涙がじわりと込み上げる。だけど、この涙も毒なのだ。私は、唇を噛んで涙を堪え、そのまま、廊下を走り抜けていった。

五時を告げる放課後のチャイムが、物悲しい音を響かせる。窓の向こうから聞こえる、汗をかいても血を流して問題ないクラスメイトたちの部活動に勤しむ快活な笑い声が、今は恨めしくて仕方がなかった。爽やかなはずの初夏の風が、無性に私の心を侘しくさせた。




終わり






触れられない距離……切ないけど萌える/////
あと、キスしてないけど、一応キスシチュってことでお願いします!!!
触れたいけど触れられない、キスしたいけどキスできない。そういう葛藤が、キスシチュの美味しいところだと思うので!!!
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▼ No.12『女遊びを続けるあいつへのキス(改)』

2014/05/25 21:36

先日、睡蓮さんから、キス企画のNo.4の『女遊びを続けるあいつへのキス』がとても萌えましたとのコメントを頂きました。そのコメントがとても嬉しかったので、No.4を大幅加筆(『memo』に投下したシャルSSとくっつけた上での加筆)をしたものを、resにてお返事と共に投下させていただいたのですが、こちらでも投下させて頂こうかと思います。











飄々と女遊びを続けるあいつに向かって振り上げた手の平は楽々と掴まれてしまった。口元に薄い笑みを浮かべながらあたしを鋭く見つめる瞳に、不覚にも胸が跳ね上がってしまう。タイプの顔は質が悪いわ『遊ばれても構わない』なんて思ってしまいそうになるんだもの。でも、それももう終わり。決意を新たにあたしは彼の名前を呼ぶ。


「…シャ、ル……」


それなのに、前から言おう言おうと決意していた「別れよう」の一言が、本人を前にすると喉に突っかかって出てくれない。掴んだ手首に唇を寄せながら妖しい視線を送ってくるあいつに、あたしは言葉を飲み込みそうになってしまった。でもそれはダメ、とあたしは大きく息を吸ってあいつに向き合う。


「あ、あたしの事なんてどうせ遊びなんでしょ?」


出てきたのはその言葉だった。精一杯胸を張って問いかけたその言葉に、シャルは少し驚いた様子で唇を寄せていた手首から顔を上げる。でも驚いた顔をしたのは一瞬だけで、一拍後にはいつもの笑顔がそこにはあった。人好きのする笑顔。誰もが惹かれるその笑顔。そんな笑顔を向けられたら大抵の女はコロっといってしまうかもしれないけど、あたしはもうその顔が相手を丸め込む時に使う顔だって知っていた。


「そんな事ない、本気だよ?」


その言葉に胸がツキンと痛む。あいつの事を深く知らなければ、あたしは気づくことがなかったのに、あたしとあいつの長い付き合いが『ソレ』が嘘だと言っていた。心に隠した「何か」に蓋をして私に向かうシャルナーク。あたしにはそれが何なのか分からない。だけどシャルがあたしにそれを言うことはこの先絶対ないだろう。ただそれだけは分かっていた。

泣きたいような笑いたいような感情がこみ上げて、鼻の奥がツンとする。一方的な私の気持ち。彼に私の気持ちが届くことはあるのだろうか。それすらも分からない。なのに、それなのに、あたしはとんだ大馬鹿もので、それでも騙されていたいと、その言葉を信じていたいと思ってしまうのだ。『シャルの馬鹿やろう……』言いたい言葉を飲み込んで、あたしはあいつに抱きついて、涙の味のする唇でキスをした。







彼女の瞳はいつもクロロを追っていた。「無謀な恋だ諦めな」と何度も言っても彼女はそれを止めはしなかった。ホームに遊びに来た時も、皆で喋っている時も、あまつさえ俺と一緒にいる時も、彼女の瞳はクロロしか映さない。


ーーねぇなんで?俺がこんなにも求めているのに。


俺の言葉は届かない。瞳をくり抜いたら君はソレを止めてくれるのかな。そんな妄執が頭をよぎる。だけど、俺がそれをすることはついぞなく、俺は彼女から逃げるようにして流星街を飛び出し、その穴を埋めるように色んな女に手を出すようになっていた。


「あたしの事なんかどうせ遊びなんでしょ?」


彼女と同じ瞳、彼女と同じ髪をした女が、俺の瞳を見ながら問いかける。俺が手を出す女は、そんなつもりは全くないのに気づくとどこかしらが彼女に似ていて、特にこの女は目元が彼女に似ていた。でも俺は、それに気付かずに今日まで過ごしていて、真っ直ぐ目を見て問いかけられるまでこの女の目が彼女に似ているだなんて思いもしなかった。なのに、俺がくり抜きたかった彼女の瞳に良く似た瞳が問いかける、「あたしの事なんかどうせ遊びなんでしょ?」と。


遊び?俺のこの気持ちは遊びなのだろうか。自分に問いかけるが答えはない。女の瞳も、女の髪も、好きなことに変わりはないのに、こんな時でさえまぶたの裏に浮かぶのは彼女の顔で。その顔は記憶の中だというのに飽きることなくクロロを追っていた。


「そんなことない、本気だよ?」


精一杯の笑顔を取り繕って答えを返す。これは誰に向けて言った言葉なのだろうか。彼女に向けてなのか、それとも目の前の女に向けてなのか、それすら俺にはもう分からない。何度振り払っても消えることはない彼女の幻影が目の前で女と被り出す。泣き笑いの顔で俺に抱きつく女が、「クロロに想いが届かない」と言って抱きつく彼女のように思えてくる。熱い想いが胸に込み上げる。ーーー愛おしい。この感情は嘘じゃない。でも、自分でも、女に向けたものなのか彼女に向けたものかもう分からなかった。


「愛してるよ」


宛先のない感情が口から飛び出して天井に消えてゆく。俺は良く分からない感情に突き動かされるままに彼女の口付けに応え、そしてそれを上回る熱い口付けを彼女にしていた。迷子の感情がさらに迷路に迷い込み、もう出口は見つからなかった。





クロロ←←←彼女←←←シャル→(?)←←←女

という設定w ややこしやぁ〜w





コメントで頂く「萌えました!!!」って一言って凄く力になります。
思えば、クロロ短編の「一夜の踊り」もコメントで頂いた「命令するクロロって萌える////」って言葉に触発されて書いたものですし、「はだけた浴衣」も「浴衣クロロって萌えるよね!!!」って一言に触発されて書いたものですし、意外と自分って単純だなって思いますw

でも、こうやって萌えに萌え返しが出来るのって嬉しいですし楽しいです!!!

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▼ No.11『耳へのキス』

2014/05/16 22:01

キャライメージ、クロロ。






彼の入れてくれたコーヒーを飲みながらソファで本を読んでいたら、突然後ろからギュッと抱きしめられた。耳の後ろに感じている、背中の温もりよりも遥かに熱い彼の吐息に、ページを捲る手が止まってしまう。「どうしたの?」平然とした声でそう訊きたかったのに、声が震えて出てこない。そんな私を嘲笑うように、彼は私の耳に唇を寄せ、低く掠れた声で私を呼ぶ。耳の奥で消えずに残るその声に、気づけば手に持った本が落ちていた。追い打ちのように耳に唇を当てられたまま「続き……読まないの?」と意地悪に問いかけられれば、さっき読んだばかりの内容があっという間に霧散して、頭の中は彼一色になってしまった。






まず最初に謝罪を。以前キスシチュのリクで「クロロが押し気味の甘い感じでの首筋へのキス」というのを頂いたんですけど、妄想をしていたら、あれよあれよと言う間に耳へのキスへと変貌してしまいました!すみません!!「耳の後ろへのキスって美味しいよね///」という知人の言葉で頭パーーンってなってしまったせいもあるのですが、キスする箇所以外の「クロロが押し気味」と「甘い雰囲気」ってのはクリアできて……いると嬉しいです。いかがでしょうか。


ちなみに私が「首筋へのキス」というキスの箇所だけでお題を頂いた場合、狂愛気味に仕上がりそうです。

手を後ろに縛り膝立ちにさせた女の髪をグッと握り、顔を上にあげさせて、「ねぇ、気道を噛み切ったら、どんなに吸っても息が出来ない地獄の苦しみを味わいながら死ぬんだって。」といい笑顔で言いながら、露わになった喉元を舌で舐め上げて噛み付くようなキスをするんだ。その間中、女が恐怖に耐えながら男を睨みつけていたら萌える//////

首筋にキスをするなら、顔を上にあげさせて、筋や喉が剥き出しになっているのがいいですよねぇ。あと、黒髪の色白の女の子の、普段下ろした髪で隠れている首・鎖骨・肩、が何かの瞬間ではだけてしまい、そこに思わず………!っていうシチュもいい!!!

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▼ No.10『壁に押さえつけられてのキス』

2014/05/03 13:40


ヒソカに飽くなき萌えを注ぐ朱絡さんと、「キャラに足蹴にされるシチュ萌えるw」と話していた時、「ヒソカなら足蹴にするよろトランプで相手を壁に張り付けてそうだよねーー!」「あぁ、そうそうそんな感じ、萌える/////」「萌えるのよね///」「あ、じゃあ、SSを書きあおうか!!」という流れになりました。お互いがお互いの書き方で書いたのですが、鬼畜なヒソカはあまり書けていなかったので書けて嬉しかったです!

朱絡さん、素敵な機会をありがとうございました。










鋭い切れ味のトランプが迫り来る。上下左右、一斉に飛んでくるそれらから逃れる術はない。
一拍後、カカッという音と共に私は壁に縫い付けられてしまった。しまった。男のオーラが込められたトランプは鋼鉄のように硬くて力を入れてもビクともしない。


終わりだ。コツ……コツ……と靴音を立て、顔にペイントを施した男が唇を上げながら近づいてくる。笑っているのに笑っていないその目に背筋が凍る思いがした。


「ククそんな実力でボクに挑むなんて片腹痛いよ◆」


まるで死を宣告する死神のような男は、そう言うとキュッと目を細めた。否が応でも『死』を意識してしまう。だけど、両親の敵であるこの男を殺そうと決めた時から覚悟は出来ている。命は惜しくない。


「殺すなら殺せ……」

それを聞き、男は至極嬉しそうに唇を吊り上げた。男のオーラが禍々しく歪み出し、それに当てられ自分の意思とは無関係に奥歯がガタガタ鳴り膝が震えた。


屈してたまるか


私は唇を千切れんばかりに噛み、込み上げる恐怖を意志の力で抑え込んだ。死ぬその瞬間まで私は屈しない。手を強く握りしめて私は男を睨みつけた。


「ん〜、いい目だ」


そう言うと男は、手に持ったトランプを勢い良く投げつけた。ザシュッと音がして鋭い痛みが腕を襲う。ぐっ。口から出そうになる叫び声を強引に飲み込む。男が追い打ちのように何枚ものトランプを投げつけた。

はぁはぁ。息が荒くなる。身体の至る所が焼けるように痛み、飛び散った血飛沫が絨毯を汚している。首の動脈を掻き切ればそれで終わりのはずなのに男はそれをせずにただただ笑いながらトランプを投げつけている。この鬼畜野郎。えぐれた傷口から真っ赤な血が心臓の動きに合わせてドク…ドクと流れ続けている。が、気にしない。気にするもんか。叫び声ひとつ呻き声ひとつあげはしない。全ての血が流れ落ちるその瞬間まで私は屈しない。折れない。負けはしない。



「キミは弱い……。踏まれればプチっと潰れる蟻のように弱い…」



男がコツ…コツ…と靴音を立てて近づき、そして、手を伸ばせば届く距離で歩みを止めた。悔しい。体が動きさえすれば、手が動きさえすれば、こいつを殺すことが出来るのに。仇を打つことが出来るのに。飛びかからん勢いで睨みつける私を見て、男は愉快げに喉を鳴らした。


「クックック…、でもね、その心意気だけは認めてア・ゲ・ル◆」


そう言うと男は私の胸ぐらを掴んだ。壁に縫い付けられていた服と肉がブチブチと音を立てて千切れ、私は男に胸ぐらを掴まれたまま宙吊りとなってしまった。用済みとなったトランプがヒラヒラと地面に落ちる。


「………ッ…」


首を絞められ呼吸が出来ない。酸素を供給出来なくなった脳にだんだん霞みがかかってゆく。苦しい。それでも手足は自由になった。筋肉が削がれていたとしても、血が垂れ流しになっていたとしても、骨と神経が無事なら動かすことができる。あいつの首を絞め返すことも、それがダメでも腕に爪を立てるくらいは出来る。最期ま足掻いてみせる。私は霞みゆく中で、腕に力を入れた。しかし、突然後頭部に衝撃を受けてその最期の足掻きさえ霧散してしまった。


「ゲホッ…ガハッ……」


瞼を開けると目の端に薄ら笑いをする男が映った。くそ、この男……遊んでやがる。死ぬ寸前まで首を絞めたのちに壁に頭を打ち付けて意識を覚醒させる。私の復讐への決意も死への覚悟も意地もプライドも全て見透かした上で、この男はこういう事をやってのけるのだ。悪魔のようなその所業に、男への憎しみがさらに増す。壁に背もたれ呼吸を整えながら、私は隠し持ったナイフに手を掛けようとした。しかし、ナイフを握るより早く男に肩を掴まれ壁に押し付けられる。そして息つく間もなく男の顔が迫る。なにをーーー


そう思うより早く、唇に生暖かい感触を感じた。それが男の唇だと気づいた時には、既に男の舌が口内に侵入していた。ぬるりとした舌の感覚がそれが紛れもない事実だといっている。衝撃が身体を駆け抜ける。


「ん…は…ぁ…やっ…!」


歯列をなぞられ、口内を犯され、舌を吸い上げられる。今まで誰一人として許さなかったそこを、無慈悲な力で蹂躙される。嫌だ、やめてくれ。


「や……ん…っ…!」


屈辱。それは何よりもまして屈辱だった。私の覚悟も決意も両親への想いも何もかもが無残に踏みにじるそれは、腕を切られるより喉を掻き切られるより嬲り殺されるよりも、強烈な仕打ちだった。怒りと憎しみで言葉が出ない私を横目に、男が嬉しげに喉を鳴らす。


「クク…イイ声…。やっとキミを啼かすコトができた」


唇を離した男が満足げに言った。そして、放心状態の私の耳に顔を寄せて男は囁いた。


「もっと強くなって、ボクを殺しにおいで◆」


睦言のように甘く甘い囁きを残して、男は姿を消した。どれくらいほうけていたのだろうか。しばらく経って意識を取り戻した私は、言いようのない屈辱に打ちひしがれ、床を叩いて嗚咽を漏らした。言われなくてももっと強くなってあいつを殺してやるーーーー。その誓いを胸に私は誰もいなくなった空間で一人慟哭した。









鬼畜なヒソカ萌え//////
圧倒的な力を持つキャラにいいように翻弄される展開って好き。

この話、結構気に入ったので、ヒソカを殺そうとする女の子のシリーズ夢としてちゃんとした形にしたいなぁー。原作沿いでヒソカが現れるところ現れるところに出向いてはヒソカを殺そうとする話。面白そう。





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